連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第7回

糖尿病患者が透析中に昏睡状態になり半身麻痺! 原因は「脳出血」か?それとも「低血糖」か?

  • このエントリーをはてなブックマークに追加

ブドウ糖を投与すると患者の意識は清明に

 「糖尿病があって、インスリンが投与されているのでしょう?」
 「いえいえ、インスリンは、ここ2~3日、投与していないんですよ」
 「そうなのですか……。ところで、血糖検査はできますか?」
 「いや、現在、往診中で、患者の自宅からの電話なんです」
 「そうですか。わかりました。それでは連れてきてください」

 ERドクターは、いずれにしても診るしかないと判断した。しばらくして、その患者が救急車で運ばれてきた。紹介医師も同乗していた。紹介医師が言うように、昏睡状態で右片麻痺(完全麻痺)が見られ右のバビンスキー反射まで陽性である。そして眼球は左に共同偏視して呼吸抑制まで見られている。これを見ると、脳卒中(脳梗塞または脳出血)と診断しても何の不思議もない。

 搬入後すぐに簡易血糖検査と血液ガス検査が行われた。血糖値は34mg/dl。つまり低血糖だ。この結果に、紹介医師は納得がいかない様子であった。

 「糖尿病はありますが、インスリンはこの2~3日、投与していないのですよ」
 「ただ、透析中の患者ですから、インスリンは必ずしも代謝されているとは限りませんよね」
 「それはそうかもしれませんが……」
 「いずれにしても正確な血糖値は静脈採血の結果でわかるので、ブドウ糖を入れてみます」

 ERドクターは押し問答をしても仕方がないと判断し、治療を優先することにした。ERドクターの指示のもと、ブドウ糖が投与された。その後、数分もたたないうちに患者の意識は清明になり、右片麻痺は消失して呼吸状態も正常になった。やっぱり低血糖だったようだ。紹介医師はバツが悪そうに自己弁護的な言い訳をし始めた。ERドクターもそれ以上のことが言えず、念のため頭部CTをとるということで一段落した。

 もちろん頭部CTは異常なかった。その後、静脈血の正確な血糖値も出たが、やはり低血糖であった。患者は透析中のためインスリン代謝が遅延し、今もインスリンが血中に残っているのであろう。再度低血糖になる可能性もあるため内科に入院となった。

 紹介医師は患者の家族に状況を説明している。患者の家族にしてみれば、脳出血と言われ覚悟していたのが完全に回復したのだから「ありがとうございます」の一言である。


連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!バックナンバー

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

河野寛幸の記事一覧

河野寛幸
胃の不快感の多くは実は「機能性ディスペプシア」という病気
日本初の『胃弱外来』開設」後編:巣鴨駅前胃腸内科クリニック・神谷雄介院長

前編『大病院を転々した末にたどり着く「胃弱外来」 初診から約1カ月で8割の患者の症状が改善』

胃痛やもたれ、むかつきなどの症状があっても、検査の結果異常がないと診断され悩みを抱える患者さんが少なくない。こうした胃の悩みを抱える人たちのために開設したのが胃弱外来。患者さんの多くは新しく認知された『機能性ディスペプシア』や『胃食道逆流炎症』などの疾患だ。その具体的な治療法について話を伺った。

Doctors marche アンダカシー
Doctors marche

くにたち駅前眼科クリニック院長。1986年、東京…

高橋現一郎

近畿大学理工学部生命科学科ゲノム情報神経学准教授…

西郷和真

フィットネスアドバイザー。JT東京男子バレーボー…

村上勇