腸間膜は他の臓器とつながった「臓器」だった(shutterstock.com)
腸間膜(ちょうかんまく)。聞き慣れない言葉かもしれない。昨年(2016年)末、この腸間膜について、医学界の定説を覆す、画期的な研究論文が発表されたという――。しかし、腸間膜はどこに、何のためにあって、どんな働きがあるのだろう?
腸間膜(メッセンテリー: Mesentery)は、解剖学では消化管についている膜全体を指すが、狭義では小腸(空腸と回腸)を腹部の後方から支える二重層の腹膜(小腸間膜)を指す。つまり、腹部の消化管のうち、腹腔の背中側の壁(後腹壁)にくっついていない部分を後腹壁につなぎ止めている膜だ。
言い換えれば、「腸管と後腹膜の間に張られた腹膜のひだ」、あるいは「空腸や回腸などの腸管を包み」、「後腹膜からつ吊り下がった腹膜のひだ」、それが腸間膜だ。二重の腹膜が癒着しているため、膜は薄いが強靭で、扇状に広がって長い腸を支える構造になっている。そのため、血管、リンパ管、神経と消化管をつなぐ幹線路となり、内臓脂肪が蓄積する場所でもある。
したがって、腸間膜がある消化管は、胃、十二指腸以外の小腸(空腸、回腸)、大腸の一部(虫垂、横行結腸、S状結腸)ということになる。小腸の壁にあるのが「小腸間膜」、結腸の壁にあるのが「結腸間膜」だ。十二指腸、上行結腸、下行結腸は、後腹壁にくっついているので、腸間膜はない。
働きは、まだ判然としないが、それもそのはず、「腸間膜は臓器ではない」と考えられて来たことから、そのメカニズムや働きが詳しく解明されてこなかったからだ。臓器は、体内の胸腔や腹腔にある器官、つまり、肺や心臓などの内臓や大血管などを指す。臓器が特定の形態や機能をもつなら、腸間膜の持つ役割は決して小さくないはずだ。
腸間膜は他の臓器と分離した構造ではなく、他の臓器と連続した構造をもつ臓器
早い話、数百年間もの長い時間、腸間膜は消化器系の臓器と分離した構造をもつ部分だと軽視され、解剖学的にも病理学的にも何ら探求もされず、忘れられてきた存在だった。
しかし、腸間膜に新たな光を投げかける先駆的な研究が始まっている――。
2012年に、メリック大学病院のJ Calvin Coffey氏らの研究チームは、腸間膜が他の臓器と分離した構造ではなく、他の臓器と連続した構造をもつ事実を発見。 その後4年間にわたって、研究チームは、腸間膜が臓器の1つであるエビデンスを蓄積し、2016年末に論文を発表した(Irish surgeon identifies emerging area of medical science | University of Limerick - Research「Gigazine」2017年1月4日付)
Coffey氏によれば、「腸間膜は解剖学がずっと信じていた断片化された組織ではなく、1つの連続的な構造である事実が明確になった」と語っている。この発表を受けて、医学界で最も権威のある解剖学書とされる『グレイの解剖学』は、腸間膜に関する記述を早くも改訂・修正している。
腸間膜が新たに臓器として分類されても、人体の構造に変化はない。しかし、腸間膜が多くの腹部の疾患に関わる可能性があるため、新たな研究が進展すれば、病因の機序の解明に繋がる見込みが強い。
腸間膜が持つ臓器としての役割はまだ明確ではないが、研究チームは腸間膜の持つ機能研究に取り組み、何が腸間膜の異変なのかを突き止め、あらたな治療への道を探るという。興味が尽きない。