家庭用の塩素系洗剤による自殺も、苦しまず簡単に死に至るわけではない

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
shutterstock_125653076-2.jpg

塩素系洗浄剤には「まぜるな危険」の表示が義務づけられている shutterstock.com 

 最近、経験した家庭用洗剤を用いたガス中毒症による自殺の症例を報告したい。

 患者は70歳代男性。うつ病の診断により精神科で薬物治療中であり、これまで盛んに「死にたい」と妻や息子に訴えていたという。

 ある晩、自宅でひとりになった時、患者はまず精神科で処方されていた睡眠薬を約20錠飲んだ。そして、浴室にガムテープを張り巡らせて密閉状態にしてから、浴槽内でトイレ洗剤のサンポール(塩酸が主成分)と台所洗剤のキッチンハイター(次亜塩素酸が含有されている)を水に混ぜ、発生したガスを吸引し自殺を図った。

 約50分後、外出していた妻と息子が帰宅すると、浴室内から刺激臭がするのに気がついた。患者はもうろうとした状態で、呼吸は浅く、息苦しさを訴えていた。ただちに換気を試みて、救急車を要請。妻と息子も息苦しくなり浴室を出た。約15分後に救急隊が駆け付け、浴槽内にサンポールとキッチンハイターを発見し、患者が吸引したのは塩素ガスであると判断。当院に搬送され、気管挿管、酸素吸入などを行ったが、数分後に呼吸が停止して死亡した――。

「決して苦痛を伴うことが無く、楽に目的を完遂できる方法はあり得ない」

 スーパーや薬局で売られている家庭用洗剤を用いた中毒自殺が社会問題となり、現在、家庭用品品質表示法によって、塩素系洗浄剤には「まぜるな危険:酸性タイプの製品とまぜると有害な塩素ガスが出て危険」の表示が義務づけられ、注意を喚起している。

 塩酸を含むトイレやタイルの洗浄剤と、次亜塩素酸を含む漂白剤やカビ取り剤を混ぜると、塩素ガスが発生する。塩素ガスを吸引すると、気道粘膜の水分と接触することにより反応して、塩酸や次亜塩素酸が産生されて、呼吸困難、頻呼吸、喘鳴(ぜんめい)、咳を訴え、胸が熱くなる。さらに、目が痛くなり、声がかれるなどの症状も呈する。そのほかに、頭痛、嘔吐、脱力感なども認められる。

 この患者は、確実に自殺可能な状態を作り上げて実行した。うつ病のために常日頃からの希死念慮(死にたいとの強い意志)を抱き、塩素ガスを吸引する前に大量の睡眠薬を飲んだことも、更に状態を悪化させたと思われる。塩素ガスなどの気体を吸引した中毒症では、吸引した時間の長さ、十分な換気ができないなどの環境状態が、患者の生死に影響する。また、高齢者や気管支喘息などの慢性肺疾患を有する患者が塩素ガスを吸引すると、重篤になりやすい。

近年、『完全自殺マニュアル』といった書籍やインターネットなどで、自殺方法に関する情報を簡単に収集することができるようになった。そのような記事の中には「この方法は苦しむことなく、確実に死に至る」などと、あたかも自殺を奨励するがごとくの内容を認めることがある。

 しかし、そんなことはない。筆者は数多くの自殺企図した急性薬物、化学薬品中毒の患者に対しての治療を行ってきたが、「決して苦痛を伴うことが無く、楽に目的を完遂できる方法はあり得ない」と申し上げたい。また、塩素は、化学兵器として、テロなどの目的で使用される可能性もあり、今後十分留意すべきであることも言い添えておきたい。
(文=横山隆 札幌中央病院腎臓内科・透析センター長)

アジア圏での“独特の美”を追求~世界トップクラスの症例数を誇る日本の美容医療
インタビュー「ここから変わる! 美容外科の世界~グローバル化する日本の美容医療」第1回 聖心美容クリニック 鎌倉達郎 統括院長

日本の美容医療は、果たして世界のトップレベルにあるのか――。「第104回日本美容外科学会(JSAS)」の会長を務めた、鎌倉達郎医師に、日本の美容医療の現状と世界の趨勢について聞いた。