急性アルコール中毒の患者で頭部外傷がある場合には検査が必要(shutterstock.com)
飲酒後転倒し、頭部を打撲して救急搬入された。患者は医師や看護師の言うことを無視して帰宅。その後に何も起こらなければ良いのだが……。
夜中0時ごろ、56歳の男性が急性アルコール中毒、頭部打撲ということで救急搬入された。どうやら男性は、飲酒後、ひとりで自転車に乗っていて電柱にぶつかり転倒したらしい。そこを通りかかった人に発見され救急車が呼ばれたとのことである。
患者からはすごいアルコール臭が漂っている。そして、前額部には挫創が、左目の横に1cmぐらいの小さな裂創が見られた。
夜中になると「急性アルコール中毒+外傷」という患者が急増
ERの医師も看護師もこの患者を見てため息をついた。ERでは急性アルコール中毒の患者は少なくない。夜中になると「急性アルコール中毒+外傷」というパターンが多くなり、診療する側にとっては大変なことがたくさんある。
ERナースが、血圧、心拍数、酸素飽和度、呼吸数、体温などのバイタルサインを取っている。ERナースもERドクターも、状況や現在の状態を調べるため患者に質問を始めた。すると、当初はおとなしかった患者が急に多弁になり、診療拒否の態度に変わってきた。ちなみに、救急隊が現場到着したときはかなり酔っていたようだが、しゃべることができ、救急車内では静かに横になっていたとのことであるである。
「ここはどこだ?」
「ここは病院ですよ。今日はどうしました? 頭を打ったことを覚えていますか?」
「何? 病院? 何で俺が病院に居るんだよ。俺は元気だぞ、俺は帰るぞ」
患者とERナースの会話が続いている。全く会話がかみ合っていない。痺れを切らした女性のERドクターが患者に質問を始めた。
「あなたはお酒をかなり飲んでいるようですね」
「そうだよ、酒を飲んで悪いのか」
「そういうことではなく、お酒を飲んだ後、自転車に乗って転倒して頭を打ったようなのですよ」
「何? 自転車で転倒して頭を打った? そんなことはないぞ。俺はどこも痛くないぞ」
「そんなことないではなく、そうなんですよ」
「お姉ちゃん、嘘を言ってはいけないよ、だまされないからな。ここは何と言う店だ?」
「私は飲み屋のお姉ちゃんじゃないのですよ。何を言ってるのですか」
患者はストレッチャーから起き上がろうとし始めた。「お姉ちゃん」呼ばわりされたERドクターは少しむきになって患者をストレッチャーに寝かせようとしている。ERナースは、患者もERドクターも、両方を落ち着かせなければならなくなった。
患者の抵抗はだんだん激しくなってきた。ERナースが診察の必要性を説明しているが、酔っている患者には馬の耳に念仏である。そして誰の言うことも聞こうとせず、「帰る、帰る」の一点張りとなった。