食べられないのも、食べ過ぎるのも、過酷なリスクを抱えている
あらゆる病気は、セルフコントロールが利かなくなった時に起きる。食べられなくなるのも、食べ過ぎるのも同じだ。アメリカ精神医学会の基準によれば、体重が標準体重の85%あるかどうかによって、摂食障害は神経性無食欲症(拒食症)と神経性大食症(過食症)に分けられる。
拒食症は以下のように分類される。
▶︎制限型:食べないで痩せる過食を伴わない拒食症
▶︎むちゃ食い/排泄型:過食嘔吐・下剤乱用を伴う拒食症
一方、過食症は以下のように分類される。
▶︎排泄型:過食嘔吐・下剤乱用を伴う過食症
▶︎非排泄型:過食嘔吐・下剤乱用を伴わない過食症
その他、拒食症や過食症の診断基準をすべて満たさない特定不能の摂食障害もある。
たとえば――、過食に罪悪感を抱いてむちゃ食いする人、体重は標準体重未満だが生理のある人、週に2回以下の過食を長期間続けている人、過食はしないが、体重を減らそうとして嘔吐したり下剤を乱用する人、大量の食物を噛んでは飲み込まずに吐き出す行為(チューイング)を長期間続けている人など、摂食障害はグレーゾーンも多い。
拒食の本質は体重増加恐怖症だ。体重を減らすという自分なりのルールが通用しなくなると、その不安を解消するために拒食に走る。食べなければ、体重は下がるので、努力が報われたという安心感と達成感に浸れるからだ。ただ、体重へのこだわりが自分を苦しめるので、恐怖症が深まり、その束縛感から逃れられなくなる。
過食の本質はストレスへの過剰防衛だ。モヤモヤしたネガティブな感覚から逃げたくなると、過食に陥る。過食すれば、ストレスの発散、感覚の麻痺は起きるが、罪悪感や嫌悪感がさらに過酷な苦悩をもたらす。拒食も過食もジレンマの連鎖から逃れられないのだ。
うつ病や社交不安障害を招くリスクも高まる!
このような摂食障害は、うつ病などの誘因となりやすい。うつ病は、食べるエネルギーが低下するので、食欲は減退するが、食べることへの恐怖心が原因ではない。うつ病が重症化すると、過食症の人でも過食する気力がなくなるため、過食が治ったように感じる場合がある。だが、うつ病が治って食欲と気力が回復すれば、過食が再発する。
また、楽しいことがあれば改善する非定型うつ病の場合は、食欲は増加して、ダラダラ食べたり、食べ過ぎたりするので、過食症とまぎらわしい。双極性障害(躁うつ病)の場合は、うつ病期に過食がひどくなり、躁状態の時に過食が抑制される時もある。さらに、摂食障害は、自分がどう思われるかの不安が強すぎる社交不安障害を招くリスクも高まる。
摂食障害の患者は全世界に約7000万人いるとされるが、幸い摂食障害の治療は進んできた。過食症の対人関係療法と認知行動療法は、治療終了後6年後まで経過を追った研究でも効果が安定している。拒食症の治療は過食症ほど研究データが多くないものの、対人関係療法や認知行動療法が最良と考えられている。
摂食障害は「心の病」だ。摂食障害を放置すれば、ますます悪循環に陥る。過食症なら自分を嫌う気持ちを少しでも和らげる。拒食症ならマイペースで進める確信を強くもつ。正しい知識と行動が伴えば、改善の道は開けるだろう。日本に摂食障害の専門家は少ないが、気になる人は信頼できる心療内科などを受診してほしい。
(文=編集部)