近赤外光線免疫治療法は転移がんにも有効
小林主任研究員によると、近赤外光線免疫治療法は、皮膚がん、食道がん、膀胱がん、大腸がん、肝臓がん、すい臓がん、腎臓がんなど、がんの8~9割をカバーできるという。
近赤外光線の照射は、がんの部位に応じて体外から当てたり、内視鏡を使ったり、がんの大きさが3センチメートルを超える場合は光ファイバーを入れて行えるからだ。また、脳腫瘍も、手術した個所にがん細胞が露出しているため、近赤外光線の照射で取り残したがん細胞を除去できる。
転移がんにも有効だ。攻略法は2つある――。
1つは、先述のがん細胞に近赤外光線を照射する方法。がん細胞を破壊する→がんの抗原(壊れたタンパク質)が露出する→免疫細胞が抗原を食べて情報をリンパ球に伝える→リンパ球は分裂して、抗原を持った転移がんを攻撃する、という免疫システムを活性化する仕組みだ。
もう1つは、がん細胞を直接破壊するのではなく、がん細胞を攻撃するのを妨害している免疫抑制細胞の制御性T細胞を叩く方法だ。IR700を付けた抗体を制御性T細胞に結合させる→近赤外光線を照射する→免疫細胞は、制御性T細胞の妨害がないので、数10分で活性化し、がん細胞を破壊する→さらに血流に乗って全身を巡り、わずか数時間内に転移がんを攻撃する。
つまり免疫細胞は、がん細胞だけを攻撃するので、従来の免疫治療で頻発している自己免疫疾患による副作用は起きない。患者の病状や進行状態に応じて、2つの治療法を適切に組み合わせれば、大きな効果が期待できる。しかも、費用は安く、日帰りの外来治療で完了するという。
近赤外光線免疫治療法は医療費の削減に?
いま世界中で治療費の増大が問題化している。
しかし、近赤外光線免疫治療法なら、近赤外光線、IR700、市販の抗体など、身近にあるアイテムを利活用して安全・安心・安価に治療できる。正常細胞を傷つけずに、がん細胞だけを破壊できる。治療後の瘢痕(はんこん)が残らない。組織幹細胞が健常なまま残るので、組織再生がスムーズに進むなど、数々の臨床メリットがある。
普及すればするほど、医療の効率化、医療費の削減につながるにちがいない。生物学、物理学、化学の知見を高度に融合した先進テクノロジー、近赤外光線免疫治療法。そのポテンシャリティは計り知れない。
(文=編集部)