照射後わずか1~2分でがん細胞が破壊
近赤外光線免疫治療法は、どのような仕組みだろう?
治療の流れはこうだ――。近赤外光線によって化学反応する物質IR700を静脈注射で体内に入れる→がん細胞だけに特異的に結合する抗体が、がん細胞に結合する→近赤外光線をIR700に照射する→IR700が化学反応を起こす→がん細胞が破壊される。
近赤外光線は、波長が可視光線と赤外線の中間に位置する光で、テレビのリモコンや果物の糖度測定に使われている。人体を透過するが、無害だ。治療には近赤外光線のうち、波長がもっとも短く(700ナノメートル)、エネルギー効率が高い光を使う。「1ナノメートル」は「10億分の1メートル」という超短波だ。
近赤外光線によって化学反応する物質IR700は、「フタロシアニン」という色素。IR700は、波長700ナノメートルの近赤外線のエネルギーを吸収すると、化学反応を起こすため、がんの細胞膜にある抗体に結合したタンパク質を変性させ、細胞膜の機能を失わせる。
その結果、照射後わずか1~2分でがん細胞が破壊される。その様子を顕微鏡で見ると、近赤外光線を照射したがん細胞は、まるで風船がはじけるようにポンポンと破裂していくらしい。
抗体は、がん細胞だけに特異的に結合し、正常細胞に結合しないので、正常細胞は近赤外光線が当たっても害を受けない。つまり、抗体が結合し、かつ近赤外光線が当たったがん細胞だけが破壊されるのだ。
抗体は、FDAが認可した20数種類の中から毒性が低い抗体を選んでいる。また、IR700は、本来は水に溶けない物質だが、水に溶けるようにケイ素を加え、尿から排出されるため、無害だ。