連載「Universal Jintai Japan(UJJ)=人体迷宮の旅」第5回

【閲覧注意】パリの「フラゴナール博物館」に世界最高傑作といわれる「人体標本」を観に行った!

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フラゴナール博物館では動物と人体の標本が同居

 そして、現在、フラゴナールが学長を務めたアルフォール獣医学校内に、彼が作った標本を集めたフラゴナール博物館がある。

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フラゴナールの傑作《黙示録の騎士》/http://christophelepetit.com/

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《顎骨を持った男》のモチーフはサムソン?/http://www.stephaniejayet.com/

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男性器もしっかりと標本化/http://christophelepetit.com/

なんといっても、その博物館に身震いさせられるのは、動物と人体の標本が同居しているからである。そこには、家畜や馬など、膨大な数の動物標本が陳列され、動物たちの奇形の標本や内臓にできる結石のコレクションなど、ここならではの珍しいものがズラリと並ぶ。

 さらに奥の別室に進むと、フラゴナールの傑作《黙示録の騎士》などの人体標本が保管されている。

 現在に繋がる解剖標本の技術が飛躍的に進歩したのは17世紀。ロシアのクンストカメラにも多くの標本の名作を残しているオランダの解剖学者フレデリック・ルイシュの功績といわれる。

 ルイシュは人体標本に化粧をしたり、レースをまいたりといった人為的な細工を施す芸術センスを発揮したと同時に、防腐剤を開発し、『解剖学宝函』を著すなど、専門分野での活躍も目覚ましい。

 フラゴナールはルイシュを継承しつつ、それを超えるべく新たな標本技術に挑んでいた。その結果として、フラゴナールが完成させたのが傑作《黙示録の騎士》であり、それと対をなすように展示されている《顎骨を持った男》と呼ばれる人体標本である。

人間までも標本にし、学校を追われる

 《黙示録の騎士》は、デューラーの銅板画の名作《黙示録の四騎士》をモチーフとしたもので、馬に乗せられた人体は女性のものである。

 一説によれば、その女性はフラゴナールと恋仲であったが、身分の違いから結ばれず、彼女がなんらかの原因で亡くなると、フラゴナールはその遺体を墓から掘り返し、標本化したといわれている。

 それが彼の愛し方だったのだろうか。単なる噂だったとしても、当時、獣医学校の学長という責任ある立場にいたフラゴナールが、動物ばかりか人間までも標本にするようになっていたことは大きな問題となり、在職6年にして学校を追われることになるのだ。

 また、《顎骨を持った男》といわれる標本はがっちりとした男性のものである。片手には馬の顎骨を振りかざし、目を見開き、いまにも襲いかかってきそうが勢いがある。

 このモチーフとなったのは、旧約聖書にある怪力男サムソンで、妙欄な美女デリラを愛し、彼女にたぶらかされるままに3000人ともいわれる殺人に手を染め、最後に自ら命を絶つのだ。そんな罪深い男をモチーフに選んだのも、フラゴナール自身の何かを投影していたのであろうか。

医学と芸術は融合していた

 とはいえ、この時代、医学と芸術は融合していた。16世紀に出版された有名な解剖図集ヴェサリウス『ファブリカ』では、皮膚がめくれて内蔵剥き出しの皮剥標本たちが、まるでギリシャやローマの彫刻像のようなポースをとっている。

 当時の医学では、衛生や消毒の概念は確立されておらず、人体解剖がすぐに病気の治療に応用できるほどの段階ではなかった。

 解剖学が本当の意味で医学の役立つようになるのは、19世紀にパスツールが微生物を発見し、感染症を妨げるようになってから。そういう意味で、フラゴナールの解剖標本は、徹底した近代精神のもとで生み出された当時の最先端の芸術表現であった。

 そして、それは21世紀となった今、再発見されているのである。

<基本情報>
Le musee Fragonard
Ecole Veterinaire d'Alfort
http://musee.vet-alfort.fr/


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ケロッピー前田(けろっぴー・まえだ)

身体改造ジャーナリスト。1965年、東京生まれ。千葉大学工学部卒後、白夜書房(コアマガジン)を経てフリーランスに。世界のアンダーグラウンドカルチャーを現場レポート、若者向けカルチャー誌『ブブカ』『バースト』『タトゥー・バースト』(ともに白夜書房/コアマガジン)などで活躍し、海外の身体改造の最前線を日本に紹介してきた。近年は、ハッカー、現代アート、陰謀論などのジャンルにおいても海外情報収集能力を駆使した執筆を展開している。著書『今を生き抜くための70年代オカルト』 (光文社新書) が話題に。近著に『CRAZY TRIP 今を生き抜くための“最果て"世界の旅』(三才ブックス)がある。

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