さまざまな結合双生児の人体標本 画像はモザイク加工をしたもの
ムター・ミュージアムといえば、なんといっても有名なのが結合双生児、シャムの双子とも呼ばれる奇形児コレクションである。
その語源は、腹部で連結した双生児チェン&エン・ブンカー兄弟の出生地がシャム(タイ王国の旧名)であったことによる。チェン&エンは、胸の部分が小さな軟骨で結合しており、肝臓を共有していた。現在の医学を持ってすれば分離可能といわれるが、19世紀の医学では無茶な分離手術は死を意味していた。そのため、彼らは生涯結合したままであった。
62歳まで生きた双生児のチェン&エン兄弟
1811年、チェン&エンはタイに生まれた。1829年にイギリス人に発見されて引き取られ、サーカスの見世物として欧米を旅することになる。1839年にはサーカスを引退し、ノースカロライナで農場を営み、アメリカ市民権を取得。2人して姉妹と結婚し、チェンが11人、エンが10人もの子供を作った。そして1874年、チェンが気管支炎で亡くなると、数時間後にエンも息を引き取っている。
その死後、すぐに遺体はフィラデルフィアに運ばれ、現在、ミュージアムで見ることができる石膏の標本となった。それは死後に型取りされたもので、胸の接続部がよくわかるようになっている。
ミュージアムには、チェン&エン以外にも、頭がひとつで体が二つ、頭が二つで体がひとつ、あるいは下半身が完全に結合してしまっているものなど、様々な結合双生児の標本が揃っている。ほとんどのシャムの双子は、出産後すぐに死んでしまうという。それからすれば、62歳まで生きたチェン&エンは、医学史に残る貴重な実例なのである。
ムター・ミュージアムは、数々の病気の症例が、ワックス標本として多数展示されている。目の病気については、100個もの症例サンプルが精巧模型に再現されていたりする。重症な皮膚病、さらにその完治した姿まで標本化されているほどである。