連載第14回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

50代後半では労働者の1割以上! 仕事と介護を両立させる「ワーキングケアラー」が290万人に

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ワーキングケアラーはなんと290万人! shutterstock.com

 数年前、懸命に働いているのに貧しさから抜け出せない新しい貧困を称して「ワーキングプア」という言葉が生まれた。いま新たに、同じく働くことをテーマとする「ワーキングケアラー」が社会問題化している。

男性では130万人がワーキングケアラー

 

 2年前、ある30代の男性から長い長いメールが届いた。

 「同居の父は3年前から軽度の認知症、介護しながら働いていた母は昨年10月脳血管障害を患い、もう回復の見込みはないほどの重篤な障害を負った。無遅刻無欠勤の優良社員だった私は、父と母の主たる介護者になったとたんに欠勤・遅刻・早退の常連になってしまった」

 ワーキングケアラーだ。彼のように介護しながら働いている人は、どれくらいにのぼるのか。

 そんな矢先、総務省の「平成24年就業構造基本調査の概要」が発表された。5年に1度実施される調査だが、いまワーキングケアラーは290万人、うち男性が130万人、女性が160万人という驚きの数字が並んだ。

 そして、過去1年間(平成23年10月~平成24年9月)に家族の介護のために退職した人は10万1000人、5年間では48万7000人に上る。年齢別には、50代後半の労働者の1割以上がワーキングケアラーだ。

もはや家族内で解決できる問題ではない

 

 これまでの日本社会では、まじめに働きさえすれば貧しさという「リスク」はほぼ回避することができた。ワーキングプアの衝撃は、働くということが貧しさのリスク回避になり得ないという現実を具体的に提示したことにある。働いても働いても、貧しさから抜け出せない人がいる。

 介護も同様だ。介護に専念する人と、家計の大黒柱として就労する人が、それぞれ存在することが家族として当然と思われてきた。それぞれに役割分担、家族資源の割り振りを通して、家族に生ずるリスクをなんとか最小限に封印してきた。苦しいながらも、そのことが逆に家族の結束を補強する絆にもなった。

 このシステムが機能している限り、介護と仕事は家族内でごく自然に統合されてきた。これが私たちの脳裏に刻み込まれた、介護と働くことの関係だった。だが、この記憶はもはや、常識でも現実でも合理的でもなくなってきている。

 歯を食いしばり、時間をやりくりして仕事と介護を切り抜けている290万人のワーキングケアラー。ギリギリのところで両立させているため、一歩踏み外すとどちらか、あるいは両方が破綻する危険もはらんでいる。

 だからこそ、私たちは声を大にして訴えている。介護で不本意な退職をしなくてもいい社会を、よしんば退職したとしても貧困にも孤立にもならずにすむ社会を(「介護退職ゼロ作戦!」)......このスローガンを空文句に終わらせてはいけないのだ。あの男性のメールに目を通しては思案する。


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津止正敏(つどめ・まさとし)
立命館大学産業社会学部教授。1953年鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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