連載第12回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

話に耳を傾けてもらえるだけで"介護ライフ"と向き合える! 「介護体験記」が伝えるもの

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『男性介護者100万人へのメッセージ』は男性介護者と支援者の全国ネットワークのホームページから購入できます(公式HP

 少し前の日本では、家で療養する病人や障害者のことは、世間に隠すことが多かった。同様に、高齢者を介護していることも表沙汰にはしたくないという意識から、「介護の話なんか人にするもんじゃない」と家族の口に戸を立てていた。

 特に、地域とのつながりの少ない男性介護者はこの思いが顕著で、慣れない介護をひとりで抱え込んでしまい、追いつめられることも少なくなかった。
 
 介護は辛くて大変、そして誰にも言えない恥ずかしいこと......。

 こう思う人はまだいるのかもしれないが、このような認識はずいぶん昔の話になっている。ブログやフェイスブック、ツイッター、ラインなどのSNSを利用して、自分の介護体験を発信する人が劇的に増えている。メディアの取材にも積極的だ。これまでを振り返りながら語る人もいれば、じっくり耳を傾け聴き入る人もいる。ケアのコミュニティが構築され、いい時代になったと思う。

介護の仕方に正解はない

 

 被介護者の介護度や病状、訪問ヘルパーやデイサービス利用など外部の力に頼っているかなどにより、介護の状況は一人ひとり異なる。それぞれに苦労があり、それぞれにクリアすべき問題がある。どの方法が正解だというものではなく、試行錯誤で積み重ねていくしかないのである。

 介護者は、男性に限らず、日々の介護の話を聞いてほしいのだ。答えがほしいわけではなく、ほめてもらいたいのでもない。ただ、うなずいて話を聞いてほしいだけだ。「そのままでいいんだよ」と認めてもらうことで、また明日からの終わりのないかのようにも思える"介護ライフ"に向かうことができる。

 私が事務局長を務める「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」はこうした取り組みを、自らの介護体験を「語る/聴く」そして「書く/読む」プログラムとして各地で実践を拡げてきた。2009年から出版している体験記『男性介護者100万人へのメッセージ』もすでに5集まで発行している。その一部をご紹介しよう。

男性介護者の孤独、つらさを公言する

 

 「爺の介護奮闘記抄」と題する一文を寄稿したのは東京のIさん(76歳)。「私が時折呼びかける言葉にたまに反応を示し、妻の表情が緩みます。その瞬間、私は、ほのぼのとした幸せな気持ちに浸り、救われます」。しかし「疎ましい葛藤が己を支配するようになってもいた」ともいい、後で悩み、苦しみ、自己嫌悪に打ちのめされたと記している。

 週の大半はデイサービスとショートステイという妻と暮らす新潟県のMさん(77歳)も初めは「咎めては我を咎める繰り返し」、この時期が一番つらかったという。そして「家で私がトイレの後始末をやってやると『お父さんが一番いい人だね』と何度も何度も言ってくれます。その言葉が私の励み」と書いた。

 介護は生き甲斐などと綺麗ごとで済ませるようなことではない。悲しくもあれば苦しくもある、とても負担の大きい日々に違いない。自由時間もままならず、家計負担も半端ではなくなり、うつろに沈む日も続くに違いない。でも、決してそればかりではないことを、多くの体験記は私たちに教えている。ささやかではあっても、介護していなければ気づきようもなかったほのぼのとした幸せに浸り心が弾む瞬間もたしかにあるのだ。

 夫婦や親子という強い親密圏での関係は複雑に絡み合い、正負の感情が切り離しがたく交差する。希望と絶望とが瞬時に往来するような介護感情の両価性を受容することが可能な社会、揺らぎをむしろ新たな秩序化の兆しとして支援する社会。「語る/聴く」「書く/読む」という介護が仲介するコミュニティ、これこそ人間の顔をした真の福祉社会ではないかと思う。

連載「いつかは自分も......他人事ではない"男の介護"」バックナンバー

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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