認知症の利用者が被害に遭いやすい......sakai/PIXTA(ピクスタ)
高齢社会の日本で、深刻さを増しているのが高齢者への虐待問題。2013年度に、特別養護老人ホームなどの介護施設で確認された虐待は221件。前年比で約43%増加し、7年連続で過去最多を更新している(厚生労働省調べ)。
そして今年4月、過去3年間に「利用者への虐待があった」か「その能性がある」と答えた要介護者や高齢者を対象とする施設が、1500カ所以上に上ることが、NPO法人・全国抑制廃止研究会の調査で分かった。
国が把握する件数の10倍以上?
同研究会では、今年の1~2月にかけて全国の特別養護老人ホーム(特養)、介護老人保健施設(老健)、グループホーム、サービス付き高齢者住宅など3万5000カ所余りの施設を対象に調査を実施。うち2割を超える9225カ所から有効回答があった。
それによると、過去3年間で虐待が「明確にあった」と回答したのは461カ所。「あったと思う」と回答した施設と合わせると1510カ所となり、全体の16.8%を占めた。
「あった」「あったと思う」比率を施設の種類別に見ると、自宅復帰に向けてリハビリを行う老健が21.2%(196カ所)と最も高かった。続いて、特養が20.5%(511カ所)、認知症の人が共同生活するグループホームが18.0%(524カ所)だった。
虐待が「あった」と答えた施設での発生件数は平均1.8件。「3件以上」という施設も63カ所に上った。虐待を受けた、あるいは受けたとみられる高齢者の人数を合計すると2203人になった。
この回答は、国が自治体を通じて把握している虐待件数(2013年度で221件)をはるかに上回る。これについてNPOは、「虐待の多くが行政に届け出されないまま、明るみに出ないままになっている」と警鐘を鳴らす。
不法な身体拘束の実施も
施設の職員数が「不十分である」と答えた施設のうち、虐待が「あった」「あったと思う」と回答したのは約23%。それに対して職員数が「十分」な施設では約12%。やはり、人手が足りない施設では、職員がストレスから暴力をふるったり、介護を怠ったりする傾向が強まるようだ。
また、高齢者を車椅子にベルトで固定したり、手にミトンをはめたりする「身体拘束」は、回答施設の2割強が実施。特に重度の要介護者を受け入れている療養型病院では、7、8割が拘束をしていた。
介護施設では「生命の危険がある」「拘束以外に方法がない」「一時的な手段」の3要件を満たす場合のみ、例外的に身体拘束が認められ、それ以外は虐待と判断される。しかし、今回の調査では拘束をしていた施設の約2割が、拘束を避ける方法がないかを事前に検討しないケースもあると回答していた。
虐待が発生する最も深刻な背景は、やはり介護現場の人手不足と過重労働だろう。今年4月には介護報酬の2回目の引き下げが実施され、労働力不足に拍車がかかる恐れがある。一方、賃金の低さだけではなく、過酷な職場環境のなかで、いわゆる「燃え尽き症候群」となって離職していく人も多い。
介護施設での虐待を防ぐには、認知症が進んだ高齢者にどう対処すればいいかなど、ノウハウの蓄積が重要になる。そのうえで専門性の高い介護者には、技術に見合う対価が払われるべきだ。質の高いサービスを望むなら、負担増は当然のこと。介護現場が破綻する前に、国民全体で考える問題ではないだろうか。
(文=編集部)