連載第13回 いつかは自分も……他人事ではない“男の介護”

毎年10万人が介護のために離職・転職......介護のある暮らしを社会のスタンダードに

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看護、介護による退職者は年間10万人以上! freeangle/PIXTA(ピクスタ)

 出産・育児期にあたる30代で就業率が落ち込み、子育てが一段落した後に再就職する人が増える「M字型就労」は、日本の女性就労の特徴だといわれている。

 ところが障害児家族は、就職率が30代で谷になったまま低迷する、いわば「滑り台型」就労だ。

 さらに障害児家族の子育ては、長期にわたって子育てから解放されず、育児から介護へ切れ目なく移行するという実態によって特徴づけられる。私たちの調査(『障害児の放課後白書』クリエイツかもがわ) でも、30〜40代の女性の就業率は60〜70%となっているが、障害のある子どもの母親の就業率は12%にとどまった。ただし、前者の就業率は未婚や子どもを持たない女性も含めた全体の数値だが、それを差し引いたとしても、その差が際立つ。

 育児・介護・家事全般を引き受ける母親と、大黒柱として家計・収入を一手に担う父親。このバランスの中で、かろうじて暮らしが維持される。この国が反省的に提起しようとしている仕事と生活の調査(ワークライフバランス)や、性別役割分業の修正などという、いま盛んに言われている政策トピックスは、障害児家族にはほど遠い実態のようだ。

 上記の障害児家族および母親の働く環境は、いままさに親や配偶者を介護する人の状況を記している。そのような錯覚を覚えるのは、私一人だけではないはずだ。

介護による離職は会社・社会全体の損失に

 

 総務省の調査によると、家族の看護や介護のために離職や転職を余儀なくされた人は、平成23年10月から平成24年9月までの1年間で10万1100人(総務省「平成24年就業構造基本調査」)。女性が8割を占めるものの、男性も2割、つまり2万人は退職したり転職したりしている。

 昨年9月、あるビジネス雑誌の表紙を「隠れ介護1300万人の激震」というタイトルが飾った。第一線で働く企業戦士は、介護をしていることを会社に秘密にしている場合が多い。さらに「介護のために大事な会議を欠席?」など、無理解である会社が大半だ。ゆえに「隠れ介護」となり、それが1300万人にも及んでいるという。
 
 そして、この雑誌のサブタイトルのように「エース社員が突然いなくなる」状況が各社で起こっている。もう一部の人たちの問題ではないのだ。

 介護による退職は、介護者の経済的な安定を奪うばかりでなく、同僚や友人という親しい関係、コミュニティを奪っていく。特に地域コミュニティとの関係、縁を作ってこなかった男性介護者の孤立は、虐待や心中といった不幸な事件の温床としても深刻な影響が指摘されている。

 介護に対する理解が進まなければ、介護をしながら働くことが難しくなることは必須だ。「なぜ介護で離職するのか」「違う選択があるのではないか」「もう少し考えたらいいのに」などと思う人がいるかもしれないが、それは介護の現実を知らない人の言葉だ。ギリギリで回していた仕事と介護の両立が破綻した時にやむなく離職し、介護に専念するか、介護と折り合える職種に転職することになる。

 働き盛りの40〜50代が軒並み介護離職するようになってからあわてても、後の祭りだ。評論家の樋口恵子さんは「本人と職場と国と自治体と保険団体と/四方大損の介護離職」(「介護退職ゼロ作戦」)と喝破したが、これは社会全体で考えていかなくてはならない、ということだ。

 だからこそ「介護のある暮らしを社会のスタンダードに」といいたい。介護を排除して成り立つような働き方や暮らし方は、もう時代遅れではないか。老いや障害により見守りや手助けが必要な家族に、気遣い寄り添えることが可能な暮らしこそ当たり前。そういえる環境こそが、この社会には相応しい。障害児家族に学んだことだが、彼らは早くからそのことを主張していた。

連載「いつかは自分も......他人事ではない"男の介護"」バックナンバー

津止正敏(つどめ・まさとし)

立命館大学産業社会学部教授。1953年、鹿児島県生まれ。立命館大学大学院社会学研究科修士課程修了。京都市社会福祉協議会に20年勤務(地域副支部長・ボランティア情報センター歴任)後、2001年より現職。専門は地域福祉論。「男性介護者と支援者の全国ネットワーク」事務局長。著書『ケアメンを生きる--男性介護者100万人へのエール--』、主編著『男性介護者白書--家族介護者支援への提言--』『ボランティアの臨床社会学--あいまいさに潜む「未来」--』などがある。

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