連載第7回 沸騰するアジア医療圏

医療観光で急成長するバンコク病院の医療費は、日本と比べて安い?

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タイの医療機関がが得意とする美容整形の費用は日本よりも安い? shutterstock

 前回に引き続き、アジアにおける「医療観光」の先進国・タイの医療事情について説明する。

 今回はバンコク病院の医療費について紹介しよう。価格については、2015年1月にドバイで開催された医療関連総合見本市「アラブヘルス」において、バンコク病院のブースで入手したものを元にしている。

 たとえば、人工膝関節全置換術と人工股関節全置換術を見てみよう。手術費用はどちらも同じ値段で、そこに入院費(ICU1日+病棟4日=計5日間)を加えて合計8909USドルである。また、手根管症候群の手術は742USドル(入院なし、ただし、薬剤やリハなどのフォローを除く)とある。1ドル120円で日本円に直すと、それぞれ106万9080円と8万9040円だ。

 では、日本の相場は? たとえば、人工膝関節置換術の場合、東京労災病院のHPによれば、「保険で定められた手術費用や人工関節材料費、全身麻酔料、薬代、リハビリテーションなど、1か月入院で自己負担約30万円が標準的です(保険診療、高齢者2割負担の場合)」とあるので、総額で約150万円ということになる。人工股関節全置換術は、独立行政法人国立病院機構・東京医療センターでは、「入院は基本的に前日で入院期間は10~21日です。3割負担で60万円くらいの負担」とある。こちらは総額で約200万円になる。

 入院期間が違うので単純に比較はできないが、入院期間が短い分だけ医療費自体はバンコク病院のほうが安いといえよう。

 入院の必要がない手根管症候群の手術ではどうか? インターネットで価格を公表している病院が見つけられなかったが、いくつかのブログでは「自己負担が1万5000円から3万円」とある。すなわち、総額で約5万〜10万円になる。日本のほうが総額では少し高いようだ。

 なお、海外でも領収書があれば、日本と同じ負担額(ただし日本での医療費を超えない部分のみ)で済む制度があるので、もしタイで手術を受けたとしても自己負担の金額は日本で手術するよりも安くなる可能性がある。

 ちなみに健康診断は、基本的な血液検査がパッケージで122USドル=1万4640円なので、日本より高いと考えていい。

国際競争力は安さではない

 そして、タイが得意とする美容整形はどうか?

 眼瞼形成術を見てみると、最も安いもので1515USドル=18万1800円である。高いものは、この何倍もする。日本の医療機関のHPをいくつか見てみると、保険適用(3割負担)で4万5000円程度。つまり、総額で約15万円。自由診療では20万〜27万円くらい。

 また、ゲルを使った豊胸術は、1日入院で4652USドル=55万8240円。日本では15万〜50万円、なかには60万円を超すところもある。私は美容整形外科ではないのでわからないが、入れるものによって違いをつけているようである。ちなみに、インプラントを入れると6621ドル=79万4520円。日本では50万〜60万円くらいが相場のようだ。

 円安の影響を受けている部分もあるが、ここでわかるのは「ハイレベルなタイの病院においては、すでに日本より医療費が高いものがある」ということである。

 次回は、タイでの国策である医療観光について詳しく述べるが、医療観光が始まった1990年代の後半とは違い、検査や治療の値段が上がってきている。したがって、値段の安さよりも、少しづつ医療の質の競争になってきている点にも注意を要する。逆に言えば、医療観光を行うのであれば、日本でも医療の質の高さが求められることになる。

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真野俊樹(まの・としき)

多摩大学大学院教授、医療・介護ソリューション研究所所長。医師、医学博士、経済学博士、MBA。名古屋大学医学部卒業。臨床医を経て、95年9月、コーネル大学医学部研究員。外資系製薬企業、国内製薬企業のマネジメントに携わる。同時に英国レスター大学大学院でMBA取得。2005年6月、多摩大学医療リスクマネジメント研究所教授就任。その後、現職。東京医療保健大学大学院客員教授、財団法人医療機器センター客員研究員、JA共済総研客員研究員、JCI アジアパシフィックエリアアドバイザリーボード、篠原学園保育医療情報専門学校校長、NPOMINS理事長、NPOメディカルユニティ理事長、一般社団法人メディカルクオリティアカデミー理事長などを兼任。主な著書『MBA10人の選択』(はる書房)、『糖尿病療養指導基本トレーニング』(日本医学出版)、『健康マーケティング』『医療マーケティング』『医療マネジメント』『介護マーケティング』『新版 医療マーケティング』(以上 日本評論社)、『医療バイオ、医療IT入門』(薬事日報社)、『入門医療経済学』『入門医療政策』(中公新書)、『保険薬局経営読本』(薬事日報社:編著)、『医療経済学で読み解く医療のモンダイ』(医学書院)、『人事・管理職のためのメンタルヘルスマネジメント』(ダイヤモンド社)、『グローバル化する医療』(岩波書店)、『ジョイントコミッションインターナショナル認定入門』『世界標準のトヨタ流病院経営』(以上 薬事日報社、監訳)、『経営学の視点から考える患者さんの満足度UP』(南山堂)、『医療が日本の主力商品になる』(ディスカバー携書)、『比較医療政策』(ミネルバ書房)、『命の値段はいくらなのか?』(角川Oneテーマ新書)など。

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