連載第6回 沸騰するアジア医療圏

医療を産業と位置づける国家プロジェクトによって高度医療が急激に普及するタイ

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急激な経済成長を遂げたタイのバンコク。健康や医療に対する市民の関心度は非常に高い。bluehand / Shutterstock.com

 前回に引き続き、アジアにおける「医療観光」の先進国・タイの医療事情について説明する。

 タイの医療サービスの中核となっている株式会社の病院は、良い言い方をすれば「患者本位」だ。お金を払えば患者の希望を、極力、叶えようと努力をしてくれる。 一方、マイナスの面は、利益が得られない医療を切り捨てる点だ。まさにタイの医療が、そのようになっている。

 タイで最大手のバンコク病院グループや、そのライバル関係にあるバムルンラート病院などは、タイ人の上位3%に当たる富裕層、あるいは日本人の駐在員、さらにはアジア諸国や中東諸国、アメリカの富裕層を対象にしている。そのため、現地の通常のタイ人は、これらの病院で医療を受けることが難しい。ただし、これらの超高級病院に次ぐ医療を提供する株式会社の病院も数多く設立されてきており、超高級病院は受診できないが国立病院のサービスでは満足できないというタイ人患者の受け皿になっている。

急激な経済発展がもたらした医療や健康に対する関心の高さ

 医療をこのような形で扱うことに対して、国民が納得しているかどうかは重要な問題だ。国民皆保険制度が整備されている日本に暮らす人々には違和感があるだろうが、そもそも医療は経済学的には「私的財」と考えられいる。政府が介入して「公共財」のように扱わない限り、医療も需要と供給のバランスがマッチするよう自由市場で決定される。例えば国防の場合、高いお金を払ったからといって自分だけが高級な国防サービスを受けることはできない。そう考えると、医療が「私的財」と言われる理由がよくわかるだろう。

 では、なぜタイの株式会社病院が「沸騰」しているのか? その最大の理由は、国民が健康や医療に対して関心が高いことが挙げられ、背景には急速な経済発展による消費財の普及が起因している。

 日本を含めた先進国の経済発展を振り返ると、現在のように消費財が普及するまでの過程は、そこまで急速ではなかった。まずは、冷蔵庫、洗濯機、掃除機など、続いてカラーテレビ、乗用車、エアコン、電子レンジなど、そして、パソコン、デジタルカメラ、薄型テレビ、そしてスマートフォンと、それぞれの消費財が開発されるごとに普及していった。しかし、タイなどアジア新興国においては、ここ数年で、これらの消費財が一気に普及している。そのため、健康や医療に対する関心が、経済発展の早期から高いのである。その関心度は、今の日本と同じくらいのレベルだ。

 このように健康や医療に関する需要が高まったとしても、それを提供するための高度病院、あるいは高度な技術を持った医者は、一朝一夕で作ることはできない。このような背景から、タイを含めたアジア新興国では、医療を産業と位置づけけて最先端の病院を整備。場合によっては、アメリカやイギリスといった最先端医療を行うことができる国に移住してしまった自国の医師たちを呼び戻すことも含めて、国家政策として医療の産業化ひいては医療観光を起こそうとしている。

 このような国では、最先端医療に対しての感応度も非常に高い。もちろんこれは、すべての最先端医療を日本のような国民皆保険制度で行うということを意味しない。民間医療保険でのカバー、あるいは自費で医療費を支払うことになる。しかし、不平等あるいは格差は起きるものの、タイにおいてここ10年間の医療技術のレベルが急速に向上したことは言うまでもない。

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