「未病」のうちに病気を治す「摂養」とは?(depositphotos.com)
「江戸時代の人たちの健康法を調べていると、今よりも優れていると思う点がたくさんあります。その本質を一言で説明すると『未病のうちに体調を整える』という考え方に集約される」
不健康な生活を送る現代人こそ、あらためて学ぶ必要がある考え方だと力説するのは、日本薬科大学教授で、日本における「漢方」の第一人者である丁 宗鐵(てい・むねてつ)医師だ。
東京都中央区の百済診療所で漢方相談を行なう丁医師は、漢方に関する多数の本の著者でもある。その丁医師が、現代人こそ学ぶべきと提唱する「江戸時代の知恵」とは、どのようなものなのだろうか?
養生・摂生・保養が「未病」を防ぐ
「江戸時代には、目の見えない視覚障害者のために、晴眼者が就けない鍼灸師や按摩師、琵琶法師など、いくつもの職業が指定され、費用をかけない福祉政策がありました。このことからも分かるように、この時代には、さまざまな点で優れた考え方を持っていた社会が実現していたのです」
その代表が「未病」という考え方。丁医師によると、「未病」とは「一見健康そうでもじつは病気に向かっている状態」、「病気に向かっている動的なプロセス」を指す。
「江戸時代の人は、いつも漢方薬を飲んでいたように思われていますが、それは誤解。薬を飲むのは最終手段でした。では普段は何をしているのか? 『摂養(せつよう)』といって、各人が普段から健康に気を使っていたのです」
では、「摂養」とは、具体的にどのようなものなのだろう。
「『摂養』の概念は大きく3つに分かれています。まずは『普段からの養生』、それから『摂生』。食事は腹八分目にするとか、お酒を飲み過ぎないなどですね。そして、最後が『保養』。身体をよく休めるということです」
これらの考えは、江戸時代の医学者・貝原益軒の書いた『養生訓』などにも記されており、江戸時代の人はこのように自分の健康に気を遣っていたというのだ。