連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第37回

「食塩中毒」で1歳児が死亡! 200gの「食塩」を摂取して自殺した成人も

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成人では食塩200gを摂取して自殺した例も

 我が国で起こった、食塩大量摂取後に死亡した成人例に関する貴重な報告があるので解説する(出典「日本救急医学会雑誌」2016年、泉谷義人医師)。

 患者は統合失調症の既往歴を認める36歳女性。精神科を退院した当日に、自宅で200gの食塩(約4g/kg)を摂取したのちに、嘔吐、意識障害をきたしたため、救急外来を受診した。

 食塩の成分である血清ナトリウム濃度が192mEq/L(正常値は135~145)と異常高値を呈し、病院搬送後、急激に意識レベルが低下したためICUで治療した。食塩摂取致死量は0.5~5g/kgで、血清ナトリウムが185mEq/L以上であれば致死的状態であると判断される。不幸にも頭部CT検査で、右側頭葉にくも膜下出血も認めた。

 人工呼吸管理、低張ナトリウム液や酢酸リンゲル液、ブドウ糖の大量輸液などの治療で、血清ナトリウム濃度を急激な補正は「脳浮腫」を増悪する恐れがあるため、緩徐に補正した。しかしその後、自発呼吸や対光反射の消失、さらに著明な脳浮腫を認め、血清ナトリウム濃度は改善できなかった。脳機能は停止したと判断され、入院後37日目に鬼籍に入った。

 諸外国の「食塩中毒」に関する報告でも、乳幼児にケースでは親や施設の職員による恣意的過剰被摂取、成人では自殺企図例が認められる――。

 夏場は熱中症になりやすい。特に乳幼児は汗をかきやすく、脱水症を呈することが多く認められる。塩分を補給する必要に迫られることも多いが、スポーツドリンクの過剰摂取には注意が必要である。真水や麦茶などでの水分補給を心がけることも必要となろう。

連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」バックナンバー

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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