連載「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第8回

「急性アルコール中毒」での搬送が実は…… 意識障害と嘔吐の原因は別にあった!

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酔っ払って吐いているのだと思ったら……(depositphotos.com)

 急性アルコール中毒で酩酊状態となり、嘔吐を繰り返す患者……。夜中のERでは別に珍しくない光景である。しかし、急性アルコール中毒で来院する患者の中に、時として重大な疾患が隠されている場合がある。

 それは深夜のER、夜中の11時時を過ぎたところであった――。

43歳の男性が急性アルコール中毒

 ERナースが「先生、ウォークインのアル中の患者です」と困ったものだというような顔をしながらERドクターに報告した。

「何歳? 男?女?」
「40代前半の男性みたいですよ」
「この時間に困ったものだね」とERドクターも苦笑いをした。

 43歳の男性が急性アルコール中毒とのことで、患者とは会社の同僚である男性たちとERナースに抱えられて、ストレッチャーの上に乗せられた。酩酊状態のようで、本人と話をすることは無理。ERにアルコール臭が漂ってきた。何回も吐いたのであろう、上着にいっぱい吐物がついている。その酸っぱい匂いが鼻をつく。介助をしていた同僚の服にも、吐物が散っていた。

 患者がストレッチャーの上に乗せられた後、同僚たちは待合に去り、ERナースが患者の着衣を脱がし始めた。ERドクターは、その時に診療していた患者のカルテを書きながら、ERナースが患者の着衣を脱がす姿を横目で見ていた。

「先生、点滴は何で取りますか? 採血はしますか?」
 着衣を脱がし終えた担当のERナースが訊く。
「うん、ソルアセト(酢酸リンゲル液)で点滴をとって、採血もCBCと生化学を取っておいて」
「意識レベルは3桁(昏睡)、血圧が180の100です」
「血圧が高いねぇ。酒のせいかなぁ」とERドクターは首をかしげた。

 ERドクターの態度には、いま診ている患者の診察が落ち着いてから、急性アルコール中毒の患者の診察に取り掛かろう、という雰囲気が漂っていた。急性アルコール中毒の患者に対してすべきことは決まっているし、緊急を要することも滅多にない。ERナースもそのへんはわかっているため、すべきことを淡々とこなしていた。

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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