「記憶」は「感情」と強く結びつく(shutterstock.com)
昨年の誕生日、あなたはどこで何をしていただろうか? それなりのサプライズ体験があった人以外、手帳などで確認しないと答えられない方が大勢だろう。
では、質問を変えて、「9.11」の事件を、あなたはどのように知りましたか? あるいは「3.11」の激震の際、あなたはどこで誰と、何をしていましたか?
いずれの問いにも、「それならば両方とも、鮮明に憶えている」と応じられる方が多いのではなかろうか。
昨年の誕生日であれば誰もが例外なく1年未満の前の出来事である。しかし、そんな近過去の記憶は、霧散したり曖昧なのに、なぜ2001年と2011年に起きた事件や災害の前後事情に関して、私たちは憶えているのだろうか?
そんな「記憶力」にまつわる最新の知見が、米ニューヨーク大学心理学部准教授のLila Davachi氏らの研究報告によって示されたので紹介しよう。興味深い彼らの成果論文は、昨年の師走、『Nature Neuroscience』(12月26日号)に掲載されたものだ。
記憶するのは「感情を刺激する写真」
実験はシンプルなものだった。Davachi氏ら研究陣は、被験者を2班に分けた。A班の被験者たちには、まず「感情を刺激する写真」を見せ、次いで今度は「当たり障りのない写真」を見せた。
一方のB班に対しては順番を逆にし、「当たり障りのない写真」を見せたあとに「感情を刺激する写真」を見てもらった。
要は「刺激的なもの」が先か、「ありきたりのもの」が先か、の違いだ。研究の目的は、双方の被験者たちが6時間後、各2種類の写真をどれくらい憶えているかを調べる、その結果に表れるかもしれない相違点にあった。
事実、実験結果は双方の「記憶力」の濃淡の違いを浮き彫りにした――。
具体的には、「感情を刺激する写真」を先に見せられたA班の被験者たちは、あとから見せられた「当たり障りのない写真」の内容に関しても、B班の被験者よりもよく憶えていたのだ。
脳スキャンの解析からも、ヒトが刺激的な画像を見せられた場合は脳が呼び覚まされ、それは物事をより効果的に憶えられるための作用であることが示唆された。
「感情」と「記憶」の強い結びつき
「感情」と「記憶」の関係は複雑だとされるが、それでも「強い感情」と結びついて刻まれたイベントは、「後々まで」記憶され続ける傾向が一般的だといわれる。
前掲の9.11や3.11、世代によっては衛星中継されたケネディ暗殺事件の映像やジョン・レノンの訃報に触れた際の想い出を語れるような「フラッシュバブル記憶」はその代表例だ。
「暗記は感情を伴なうかたちで覚えるといい」とは、博覧強記ぶりでクイズ番組に引く手あまたの京大卒お笑い芸人、宇治原史規さん(ロザン)の受験勉強アドバイスの一案である。
これは「感情記憶法」とも呼ばれ、難儀な数学の公式を叩き込む際も「響きがええやん!」とかツッコミ芸人よろしくコメントを付したり、音楽を聴きながらBGMの旋律や歌詞に感情移入しつつ、テンポよく暗記してゆくなどの効果は「お墨付き」が与えられている。