腸内フローラでがん治療の効果が変わる!?
肺がんの生存率が改善してきている大きな要因として免疫療法の影響が大きいと言われる。米国では免疫療法の代表格である免疫チェックポイント阻害剤の適応となるがんと診断された患者が毎年数十万人いるという。(Siegel RL, Miller KD, Jemal A. Cancer statistics, 2018. CA Cancer J Clin. 2018;68(1):7-30. doi:10.3322/caac.21442)
がんに対する第四の治療法といわれる免疫療法に対する関心は日本でも日増しに高くなっている。そんな中、7月1日~3日、和歌山市で開催されたのが第25回日本がん免疫学会総会(座長:和歌山県立医科大学 山上裕機教授)だ。
そのメインテーマは「がんと免疫の萃点を極める」だ。萃点(すいてん)とは聞きなれない言葉だが、さまざまな物や事柄があつまる場所、さらにいえば、さまざまな因果系列、必然と偶然が最も多く交わる場所とでも言おうか。この言葉は博物学者の南方熊楠による造語といわれている。
つまり今回の学会のテーマはがんとヒトの免疫機構に関係するあらゆる事象やエビデンスを徹底的に探求しようという意欲の表れであろう。
腸内細菌叢(腸内フローラ)データバンク(U-Bank)を活用したがん治療へのアプローチ
シンポジウム 3のテーマは「がん免疫療法における腸内細菌の意義」だが、「がん免疫細胞療法の効果最大化に向けた腸内細菌叢へのアプローチ」と題する発表を行ったのは昭和大学の臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学部門の吉村清教授。
「現在、昭和大学では、腸内細菌叢データバンク(U-Bank)を用いて、肺がんを含む様々ながんに対するこれまでの腸内細菌叢とがん免疫の関わりに関する研究を進めています。世界中でがんと腸内細菌の研究が進められていますが、そこではまだ不明な点や課題が多いのが現状です。ひとことで腸内細菌といっても、日本で生まれ育った人は特有な腸内細菌叢を有するため、欧米のデータでは補えないという面があります。そこでは日本独自のデータ収集と解析が不可欠です」としている。
この学会講演はこれまでの研究の成果の報告が中心だが、現在吉村教授のグループが最も力を注いでいる研究は、昭和大学病院を中心に全国の11病院で進められている医師主導治験の研究だ。肺がんの免疫療法として、従来用いられていた2つの薬を組み合わせ、その安全性と効果を検証すると同時に、効果がある患者さんがもつ共有の特徴を探すものだ。この治験ではがん組織、血液、便、それぞれの解析からバイオマーカー、あるいは腸内細菌などの免疫状態も並行して探索するという。
「この治験は、治療薬を開発する企業ではなく医師が中心となり治験を行うため、企業中心で行う治験と比べ、潤沢な研究費がありません。そのため膨大なデータを数理統計学的に解析するために膨大な費用が掛かるため、クラウドファンディングという挑戦を行っています」
そのクラウドファンディングとは『命を救う新たな選択肢を!肺がんに対する免疫療法の治験を利用した研究』(https://readyfor.jp/projects/kangarootail)で当初、目標額を2000万円と設定していたが、多くの医療関係者や患者さんの支援が集まりすでにその目標額を達成、第二目標の3000万に挑戦中だ。その最終締め切りは7月9日(金)の午後6時となっている。
吉村教授は「講演直後、夕方最後のセッションであったにもかかわらず多くの研究者が直接お話を聞きたいとわざわざ待っておられ多数の質問をして頂いたことに感動しました。数百の種類もある細菌叢と、複雑な免疫やがん治療効果との関わりを調べるために、科学的に証明された独自の解析方法を行っていかなければなりません。いずれそうして得られたデータをもとに、がん治療にとって有益なエビデンスを確立していけるものと考えています。少しでも多くの肺がんの患者さんの命を救うため研究開発に邁進したいと考えています。残り僅かな日数ですが、是非ご支援・ご協力をお願いいたします」と語った。(文=編集部)
吉村清(よしむら・きよし)
昭和大学臨床薬理研究所 臨床免疫腫瘍学部門教授
山口大学医学部卒業、2002年 ジョンズホプキンス大学腫瘍科・外科ポストドクトラルフェロー
2007年 同アシスタントプロフェッサー、
2010年 山口大学大学院医学系研究科消化器・腫瘍外科学助教
2014年 国立がん研究センター 先端医療開発センター 免疫療法開発分野(築地) 分野長
2015年 コロラド大学客員教授、山口大学大学院消化器・腫瘍外科学及び技術経営大学院非常勤講師
2016年 国立がん研究センター 中央病院 先端医療科医長、先端医療開発センター 免疫療法開発分野(築地) 分野長
2018年 昭和大学臨床薬理研究所臨床免疫腫瘍学講座教授
昭和大学医学部内科学講座腫瘍内科学部門兼担教授
2020年より現職。
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