宇宙放射線のリスクが明らかに(shutterstock.com)
アメリカのバラク・オバマ大統領は、2030年までに火星旅行を実現させると発表した。有人宇宙船で、火星まで往復させるという計画である。
これまで火星に無人探査機を飛ばしてきた人類が、人間を火星まで行かせるという夢のような計画。月面着陸を成功させたアメリカらしい構想である。
宇宙事業への投資熱
これに触発されたのか、「宇宙事業に興味がある」「火星に行きたい」という人は増えている。
ライブドア事件で時の人となった、「ホリエモン」こと堀江貴文氏はロケット事業に夢中である。電気自動車や再生可能エネルギー事業で注目されているベンチャー企業「テスラモータース」社長のイーロン・マスク氏は、火星移住計画を発表。宇宙事業のためにspaceXという会社を設立し、火星に移住するためのイメージ動画もつくり公開した。地上から巨大ロケットが発射され、燃料を補給しながら火星に到着する――。まだ構想段階なので、CG映像は非現実的である。
しかし、こういう構想を立ち上げることで、世界中から投資を呼び込み、実現させようという決意が伝わってくる。10年前だったら笑い話だったろう。アメリカ大統領という、いわば世界の最高権力者が、火星旅行を具体化させよう、というメッセージを出しても、この時代に一笑に付されることはない。
「宇宙病」「宇宙酔い」とも呼ばれる「宇宙環境適応症候群」とは?
地球は温暖化が進み、異常気象が普通になってしまった。世界規模で地球の人口は爆発的に増えており、このままでは人類のすべてが幸福に暮らすことは困難であるという危惧には現実味がある。
これまでの宇宙遊泳などの経験から、人類は宇宙空間に滞在すると、地上ではみられない体調異変が起きることがわかっている。
無重力環境にさらされることによって起こる「宇宙環境適応症候群」。短く「宇宙病」とか「宇宙酔い」と呼ばれている。症状は、吐き気、嘔吐、顔面蒼白、冷汗、生つば、唾液分泌、物憂さ、頭痛、浮動感・回転感を伴うめまい、倦怠など。宇宙飛行士の約半数は経験している。2〜3日で回復することから大きなリスクとは考えられていなかった。
高レベルの宇宙線で「認知症」を発症するリスクが
その一方で、火星旅行について、科学者がリスクを研究して、その成果を発表している。アメリカのカリフォルニア大学アーバイン医学校放射線腫瘍学教授のリモリ(Limoli)氏は、長期間の宇宙旅行で、高レベルの宇宙線に曝されることで「認知症」を発症するリスクがあることを発表した。
宇宙旅行で宇宙飛行士が浴びる銀河宇宙線に見た、「高エネルギー荷電粒子」を、げっ歯類の動物に照射したところ、精神障害や認知症につながる脳損傷が発生することが明らかになった。
脳は人間の臓器のなかで最も緻密で繊細だ。シナプスという神経細胞は、それ自体が宇宙のような広大なネットワークで構成されている。それが宇宙線に曝されることで、回復不可能なダメージを受ける可能性があるというのだ。