連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第26回

大口病院の「点滴殺害事件」に見る「界面活性剤中毒」の恐怖! 家庭用の石鹸や洗剤にも使用

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大口病院の「点滴殺害事件」の犯人は?(shutterstock.com)

 今年9月、横浜市の大口病院で点滴を受けた88歳の入院患者など2名が相次いで死亡した事件が発生し、現在も警察の捜査が行われている。

 その後の捜査で、混入されたのは「ヂアミトール」という外用殺菌消毒剤(成分は「界面活性剤」のベンザルコニウム塩化物)であったことが、さらに、未使用の点滴についているゴム栓にも、注射器によると思われる穴があいているのが判明した。

 これらの点滴にも異物の混入がないか調査が進められており、この事件は大量無差別殺人を企図した可能性がある。

 病院内での点滴などの薬剤の管理は、慎重かつ厳重に成されなければならないのは当然である。現在のところ、内部の医療従事者の犯行が疑われているが、一刻も早く事件の解決を願い、医療機関は同じような事件の再発防止に努めなければならないであろう。

 また、今回の不幸な事件を教訓として、医療機関はセキュリティーの確立を徹底させることが望まれる。

点滴に混入された「界面活性剤」とは?

 点滴に混入された界面活性剤は、混ざりにくい水と油を混ざりやすくさせる製剤である。人体の細胞にはレシチンという成分が含まれているが、血管内のコレステロールを溶解しやすくしたり、血行を良くする作用のある、天然の界面活性剤として有益な物質である。

 バター、マーガリン、牛乳などにも製造過程でも使用されている。石鹸、衣類や食器用洗剤、消毒剤にも含まれている。

 消毒剤ヂアミトールは、細菌や真菌などの表面に吸着し、菌体のタンパク質を変性させて殺菌する働きをする。手術部位の消毒、皮膚や粘膜の創傷部位の消毒、膣洗浄、結膜のうの洗浄や消毒などで優れた効果を発揮する。

 しかし本剤は、経口摂取、浣腸には使用してはならない。また炎症部位に長期間、広範囲に使用すると、全身に吸収されて筋肉の脱力を起こす恐れがあるので注意を要する。
 

「界面活性剤中毒」は自殺目的が多数

 これまで日本中毒学会でも、界面活性剤が含まれた家庭用洗剤や石鹸液中毒症の報告が数多く発表されている。

 しかし、これらの症例は、自殺目的による経口摂取である。大量摂取例での消化管粘膜の損傷や筋力低下、けいれん、肝機能障害を認めた症例、さらにショックや多臓器不全を誘発しての死亡例が報告されている。

 もちろん、点滴などでの血管内への注入による中毒例は、ほとんど認められない。横浜市・大口病院のような意図的な混入事件の報告例も、これまでは存在していない。

 ちなみに、ベンザルコニウムなどの界面活性剤の同定、濃度の測定は、限られた分析専門施設のみ可能である。

横山隆(よこやま・たかし)

日本中毒学会評議員(同学会クリニカルトキシコロジスト)、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長。2015年8月に同病院退職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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