名古屋女性殺害事件の女子大生を彷彿とさせる映画『タリウム少女の毒殺日記』

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『タリウム少女の毒殺日記』 2012年/日本/82分/カラー 監督・脚本・編集:土屋豊 出演:倉持由香、渡辺真起子、古舘寛治、Takahashi 配給:アップリンク 公式HP:http://www.uplink.co.jp/thallium/

 今年1月、高齢女性を殺害した容疑で名古屋の女子大生が逮捕された。動機は「人を殺してみたかったから」。女子大生はその後の調べで「高校時代、友人に毒を飲ませた」と供述。その症状から劇物のタリウム中毒であった疑いがあるといわれている。

 彼女のツイッターへの書き込みからは、過去の異常犯罪者に高い関心を持っていたことがうかがえる。2005年にタリウムを母親に投与し、殺人未遂で逮捕された静岡県の女子高生もその一人だった。

 この作品は、その女子高生のブログを元に、土屋豊監督が独自に解釈を加えて作り出した、架空の"タリウム少女"の物語である。

不快指数MAX(!?)のメタフィクション

 タリウム少女のルーティンワークは、「観察するぞ。観察するぞ......」と唱え、カエル、アリ、ハムスター、金魚などの死にゆく姿を観察し、動画サイトにアップすることだ。それでも飽き足らず、自分の母親にもタリウムを投与し、症状の変化を詳細に観察する。

 常に傍観者という立場を貫き通す彼女は、学校で壮絶ないじめを受ける自分さえも観察対象にしてしまう。肉体と精神が乖離し外から世界を眺めることは、現実から自分を守るための防衛本能なのか。ただ、彼女は母親への憎悪からタリウムを盛ったわけではない。金魚もハムスターも母親も同じなのだ。「そうした行為はいじめへの報復の代替ではない」と彼女は言うが、動機が理解しがたい点に得体の知れない恐ろしさがある。

「食用魚は殺してもよいのになぜ観賞用の魚はいけないの?」「美容整形はOKなのに遺伝子操作はだめなの?」。そうした社会の矛盾をつくのが、世間で社会問題と思われているタリウム少女だというのも興味深い。

 映画では物語が虚構であることを観客に気づかせるメタフィクション形式が取られ、作品中監督と少女との会話や、実在の生物学者や美容整形外科医、身体改造アーティストなどのインタビューが挿入される。独自性の高い作品だが、非常に不快なシーンが続くため、拒否感や嫌悪感を覚える人も少なくないだろう。少年に馬乗りになって顔に唾を吐く、カエルを解剖し、まだ動いている心臓を取り出す、金魚を薬品の中に入れ絶命する様子を観察する......。それでいてこの不快な描写は、この作品を他に埋没させず、実際の事件を風化させない不思議な力を持っているのだ。

タリウム少女予備軍にどう対処すべきなのか

 タリウム少女と前述の女子大生には共通点が多い。動物虐待、薬品収集、ブログやツイッターの書き込みに犯罪の予兆があること。これらがエスカレートして事件になる例は過去にもあり、今後も第3、第4のタリウム少女が出てくる可能性は高い。

 再発防止のためには、犯罪の芽を早めに摘み取ることが必要になるかもしれない。しかし「言動やブログの書き込みが異常だから」と強制的な対応を取れば、魔女狩りにもなりかねない。医療的、法的な対策が注目されているが、それを確立するのは容易ではないだろう。

 実際のタリウム事件から10年。彼女は先天的な脳の障害であるアスペルガー症候群と診断され、医療少年院に送致されたという。誤解してはならないのは、疾患が直接犯罪と結びつくものではないということだ。社会性、コミュニケーション、想像力に障害があるため社会生活に問題を抱え、疎外感から反社会的な行動に出る場合もあるというだけである。今は20代半ばになっている彼女は、この時の自分自身をどう捉えているのだろうか。

 映画の中のタリウム少女には、やがて感情の解放が訪れる。観察対象を変え、閉塞した世界に風穴を開けて、人間らしい表情を取り戻したことだけが救いである。

タリウム:劇物に指定されている化学物質で、無味無臭。18歳未満には販売が禁じられている。摂取により嘔吐、食欲不振、視力障害、痙攣、知覚異常、呼吸麻痺、結膜炎、脱毛などさまざまな中毒症状が見られ、短期に大量摂取すると死に至ることもある。

『タリウム少女の毒殺日記』
2012年/日本/82分/カラー
監督・脚本・編集:土屋豊
出演:倉持由香、渡辺真起子、古舘寛治、Takahashi
配給:アップリンク
公式HP:http://www.uplink.co.jp/thallium/

(文=編集部)

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