温泉の「硫黄臭」に注意(shutterstock.com)
2014年10月、北海道足寄町の温泉旅館旅館「オンネトー温泉 景福」で、入浴中だった宿泊客の男性が「硫化水素ガス中毒」に見舞われ、現在も脳機能障害を併発していることが今年になって環境省の調査で判明した。
硫化水素は水素の硫化物で、腐卵臭のある無色の有毒気体だ。硫黄を含むたんぱく質が腐敗したときに生じ、火山ガスや鉱泉中に含まれる。各種金属塩の水溶液に通ずると特有の色をもつ硫化物を沈殿させるので、分析試薬として利用されている。
硫黄泉の温泉施設では、硫化水素濃度の適正基準が浴槽の湯面上方10cmで20ppm、浴室の床から上方70cmで10ppmを超えないように設定されている。しかしこの温泉旅館では、数か所の地点での測定値が、前者では50~200ppm、後者では80~190ppmと、きわめて高かった。
濃度20ppm以上であると、嗅覚の麻痺、眼の損傷、呼吸障害による咳、痰の排出が認められ、長時間硫化水素に暴露されると、気管支炎、肺炎、さらには肺水腫に進展する。350ppmを超えると生命の危険が生じ、700ppm以上では短時間で昏倒し、呼吸停止し死に至る、きわめて恐ろしい中毒である。
硫化水素中毒は、空気より重く、水に溶けやすい
硫化水素は、無色で腐乱臭があり、空気より重く、水に溶けやすい性質がある。したがって温泉施設では、硫化水素の含有量を低く抑えるために、注入は湯面より上部に設置し、温泉を空気に触れやすくして、浴槽内の濃度を上昇させないことが求められている。
しかしこの温泉旅館では、浴槽の底に注入されていたため、浴槽内の濃度が高値になったものと思われる。
環境省の統計では、温泉の浴槽内における中毒が原因の死亡例や重体者の報告は認められない。ただし、2005年に秋田県の温泉では、旅館の近くの雪のくぼみの中で4名が硫化水素中毒となり、うち3名が死亡するという痛ましい事故があった。また2015年には、同じ秋田県の別の温泉で、作業中であった3名の男性が死亡している。