連載「病理医があかす、知っておきたい「医療のウラ側」」第14回

死者に優しい医療〜「死者の原因」を究明する病理医・解剖医の育成が患者を救う

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病理医と解剖医が不足している(shutterstock.com)

 「異常死」の取扱いが議論されている。

 昨年10月から始まった医療事故調査制度に関連し、医師に「異常死」の届け出義務を課した「医師法21条」の見直しが、論点の一つとして浮上している。自民党は、医療死亡事故を、この条文の適用除外とする検討を始め、日本医師会も後押しする。

 自民党は今春から関係団体からのヒアリングを開始。5月末にまとめた報告書では「診療関連死(医療事故死)に広く21条を適用し、警察が関与することは、医療の萎縮を招く恐れがある」と指摘した。6月の事故調制度見直しには盛り込まなかったが、今後法改正に向け議論を続ける。

*医師法21条:医師は、死体または妊娠4カ月以上の死産児を検案して異状があると認めたときは、24時間以内に所轄警察署に届け出なければならない。

病理医と解剖医が不足しているニッポン

 診療関連死とは、病院での医療行為に関連した死亡で、医療事故死の可能性が含まれている。診療関連死の解剖を担う主役は病理医だが、議論は十分な数の病理医がいるという前提でなされている。

 しかし、病理医は現実には決定的に足りないのだから、そういう議論の前提として、病理医を増やす仕組みをつくらないとどうにもならない。そこに関係者、官僚や国民も気づいてほしい。

 病理医が一番大切にする(せざるを得ない)業務は、生きている患者さんから採取された臓器・組織・細胞を肉眼と顕微鏡で判断・診断するしごとだ(組織診・細胞診と呼ばれる)。

 手術や生検、穿刺や擦過で採られた標本が病理診断部門(病理診断科)に毎日届けられる。これらに正確な診断を決める「最終診断」が病理医の役割であり、臨床医はこの病理診断に基づいて治療を行う。

 この業務が数的に増えているだけでなく、臨床医からの要求(診断の質)が高度化するなか、解剖業務がつい後回しになる傾向がある。

  死因究明という視点でも、現在の日本では、病理医と検死(法医)解剖を行なう法医の医師、つまり解剖医が圧倒的に足りない。国は早急に戦略をたてて、病理・法医の医師を育成する必要がある。

 病理と法医に進む人材には積極的に奨学金を出す、大学院に進むのであればその学費は国で補助するなど、こうしたリクルートの方法を考えることが急務だ。人育てには時間がかかる!

 私は国家の安全には、防衛政策と並んで、死因究明システム(検死制度)の充実が不可欠だと確信している。死因不明の人が多い(殺人の可能性のある事件が十分に追究されない)社会は、とてもとても安全だとはいえない。

堤寛(つつみ・ゆたか)

藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

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堤寛
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