連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」第10回

病院にあふれる臓器・組織はどのように処分される?~誰も知らない「医療廃棄物」の問題

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病理診断に使われた臓器・組織は焼却しなくてはならないが……(shutterstock.com)


 知る人ぞ知る、いや、一般の人たちは誰も知らないとさえいえる、「医療廃棄物」の問題について紹介したい。

 病理診断の業務は、人体のさまざまな臓器・組織を肉眼的ならびに顕微鏡的に検索して、最終診断を下すのがその使命である。病理診断に用いられる人間の臓器・組織は、病理解剖や手術切除、生検で得られ、その大部分はホルマリン、つまり、ホルムアルデヒド水溶液中で固定される。

 ホルマリン固定された臓器・組織は、「切り出し」と通称される組織切片用のサンプリングがなされる。切り出された材料はパラフィン包埋ののち、病理検査技師により4μm 程度に薄切。そして、ヘマトキシリン・エオジン(HE)染色がなされ、最後に病理医による鏡顕・診断が行われる。この段取りが、毎日、全国の病理診断室で繰り返されているのだ。

 病理診断室の悩みは、病院の「財産」ともいえる資料が増えつづけること。パラフィンブロックやHE標本を主体とするガラス標本(プレパラート)、そして病理報告書の3点セットは、半永久保存されるのが原則である。

 しかし、当然のことながら、保存スペースは有限である。スライドガラスは想像以上に重く、保管用キャビネットを下手に設置すると「床が抜ける可能性がある」と事務方に脅かされる。いったい何年分の材料を保存すべきなのか?  各施設の事情に合わせて個別に検討されている。

感染性医療廃棄物は焼却処分

 さて、病院内における「占拠性病変(space-occupying )」ともいえる検索済みのホルマリン固定臓器・組織は、その後どのように取り扱われているのか?

 生検材料は1~2週間、手術切除材料は1~2年、解剖材料は数年間保存が標準的だろう。保存期間が過ぎた臓器・組織は、医療廃棄物と化す。病理解剖材料だけは、屍体解剖保存法の適応・規制を受けるため、やたらな処理はできない。生検材料や手術切除材料は、いわば生ゴミ扱いされても文句は言えない。

 ただしこれらは、法的には血のついたガーゼやメスといった「ごみ」と同等の「感染性廃棄物」とみなされ、廃棄物処理法の規制対象となる。感染性医療廃棄物は、病院ごとに焼却炉で焼却するか、都道府県の認可を受けた業者が収集して焼却処分しているのが現状だ。生検材料や手術切除材料の残りも例外ではない。

 しかし、何といっても人様の臓器・組織である。良心的な病院では生ゴミ扱いを避けて、解剖材料とともに遺体焼却場(斎場=焼き場)で茶毘に付している――。

 と言えば格好いいが、その実、軽く水洗いした臓器・組織をできるだけ乾燥させてから、まとめて袋詰めにして棺桶に入れるのである。料金は重量で決まるので、できるだけよく乾燥させるのがコツだ。

 ただし、古いスタイルの斎場は、ホルマリン固定臓器・組織は焼いてくれないことが多い。臓器・組織からにじみ出るホルマリン液が焼却台を腐蝕してしまうのが、その理由だ。

堤寛(つつみ・ゆたか)

藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍し、2001年から現職。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏、日本病理医フィルハーモニー(JPP)団長。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書)、『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)など。

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