連載 「救急医療24時。こんな患者さんがやってきた!」第2回

産後うつで搬送されてきた母親の胃から出てきた“とんでもないモノ”とは?

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のどの奥からとんでもないものが出てきた!?(shutterstock.com)

 医学的にどこが問題なのかはっきりしない親子が運び込まれた。母親は、出産後、うつ状態になっているらしい。しかし、検査を進めて行くうちにとんでもない事実が判明する――。

 ある日、30歳の女性と0歳の子供が救急車で搬送された。その女性の母親も付き添っており、彼女は家族待機場所に案内された。ところが、女性も子供も見るからに元気そうだ。この2人が救急車で搬送された理由は次のとおりである。

 30歳の女性が出産目的で里帰りをし、数カ月前に無事、子供を産んだ。それまで精神科的な病気に罹ったことはなかった彼女だったが、出産後、うつ症状を見せるようになったという。そんな女性が昨日、生まれたばかりの子供を連れて行方不明になった。

 ただし、今朝、母子ともに発見され、無事、実家に連れ戻された。外見上は母子ともに元気そうだが、その女性の母親が心配して119番をしたという。救急隊員も女性と子供が、医学的に問題があるかどうかわからないものの、家族が希望するので病院へ運んだ。

 たしかに、それまでに精神科的な疾患を発症したことがないのに、出産を契機にうつ状態になる人は妊産婦の10~20%にもなる。それ自体は不思議なことではないが、この親子にどのような問題があるのか、ERドクター(医師)たちも疑問であった。

咽の痛みを訴える患者

 搬送後しばらくして、30歳の母親を担当したERドクターがリーダー医師のところに困った顔をしながら相談に来た。

 「支離滅裂なことを言っているとは思えないし、話は筋がとおっている。ただ、『いちばん困っていることは何か?』と訊くと、『咽(のど)が痛い』と言うんです。その理由は、『昨日、山で木の枝を飲み込んだから』と。それも、10cmぐらいの木の枝を丸呑みしたと話すんですが。信じられますか?」

 「木の枝を飲み込んだ? 話しぶりからして、うつ状態が原因で訳のわからないことを言っているようには見えないんだね。しかし、なぜそんな物を飲み込んだんだ? 自殺目的か?」

 「本人もそう言っています。いくら自殺目的とはいえ、木の枝なんか丸呑みできますか?」

 ERドクターが疑問そうに質問すると、リーダー医師も「ンー?」と首をかしげながら絶句した。精神科の患者の中には、嘘を言う人も珍しくない。しばらくして、リーダー医師が口を開いた。

 「患者がそう言うのだから信じるしかない。仕方がない、内視鏡をしよう」

 患者と家族に内視鏡の承諾をとり、リーダー医師による内視鏡が始まった。内視鏡のスコープが患者の口から咽頭(のど)の中に入る。気管と食道の分岐部の手前まで入った時、そこに傷が認められた。その傷を見て、内視鏡スコープを操るリーダー医師も、モニターを見ていたERドクターも、一様に驚いた。

 そして、内視鏡室にいるみんなが、「患者が言っていたことは本当かもしれない」と思い始めた。スコープはそのまま食道に入っていった。するとどうだろう、確かに木の枝のような物が見えるではないか!

河野寛幸(こうの・ひろゆき)

福岡記念病院救急科部長。一般社団法人・福岡博多トレーニングセンター理事長。
愛媛県生まれ、1986年、愛媛大学医学部医学科卒。日本救急医学会専門医、日本脳神経外科学会専門医、臨床研修指導医。医学部卒業後、最初の約10年間は脳神経外科医、その後の約20年間は救急医(ER型救急医)として勤務し、「ER型救急システム」を構築する。1990年代後半からはBLS・ACLS(心肺停止・呼吸停止・不整脈・急性冠症候群・脳卒中の初期診療)の救急医学教育にも従事。2011年に一般社団法人・福岡博多トレーニングセンターを設立し理事長として現在に至る。主な著書に、『ニッポンER』(海拓舎)、『心肺停止と不整脈』(日経BP)、『ERで役立つ救急症候学』(CBR)などがある。

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