合計特殊出生率は上昇したが……(shutterstock.com)
安倍政権が掲げる「人口1億人」は維持できるのか? 1人の女性が生涯に産むと見込まれる子どもの数(=合計特殊出生率)が、2015年は2年ぶりに増えた。微増ではあるものの、少子高齢傾向下の朗報には違いない。
5月23日に厚生労働省が発表した「人口動態統計」によれば、9年ぶりの下落現象がみられた2014年を昨年は0.04ポイント上回る1.46を記録した。しかし、人口維持に必要とされる数値2.07には依然としてほど遠い。
また、同統計に先立つ5月11日、厚労省研究班が「精神疾患の治療やケアが必要な妊産婦は年間4万人いる」という深刻な推計を公表した。これは全国の病院や診療所(計2453施設)で昨年11月に出産した妊産婦を対象に、それらの必要性を自己申告で問い、結果44%(1073施設)の回答を得て推計されたものだ。
全回答者(約3万9000人)のうち、治療やケアの必要性を判断された妊産婦は1551人。これは全体の4%に該当する。全国の年間出産概数100万人(2015年は100万5656人)に置き換えれば「年間4万人」という推計が浮かび上がる。
10年間に都内で63人もの妊産婦が自殺
そして、産後うつに象徴されるこうした精神疾患、その今日的深刻さを痛感させたのが、4月に公表された「妊産婦自殺」の実態だ。これは日本産婦人科学会などの依頼にもとづき、東京都監察医務院と順天堂大の教授らが調査を行なって判明した東京23区内の現実である。
戦後の医療技術の進歩にともない、妊産婦の死亡率自体は50年前(=出産数10万人当たり80人強)に比べると、近年は同3~4人前後と大幅に減少している。しかし、従来の集計から「妊産婦自殺」の実態が漏れていたのも事実で、その数を本格的に調査したのは今回が初めてだという。
調査班は、ここ10年間(2005~2014年)における東京23区内の自殺者内訳を対象に分析を試みた。すると「妊娠中」の女性自殺者が23人、「出産後1年未満」の女性自殺者が40人、計63人が含まれていることが判った。
そのうち自殺の時期を解析すると「妊娠2カ月」で自ら命を絶った女性が12人で最多、次いで「出産後4カ月」の女性が9人という痛ましさが読み取れた。
対象期間の10年で23区内の出産数は74万951人。東京都が集計した10万人当たりの妊産婦死亡率は9年間(2005~2013年)の平均で4.1人であるから、概算で自殺者が倍を上回る。