連載「病理医があかす、知っておきたい“医療のウラ側”」第7回

「人工的な避妊は罪」のカトリック社会をオギノ式避妊法で動かした荻野久作

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「人工的な避妊は罪」のカトリック社会をオギノ式避妊法で動かした日本人荻野久作の画像1

「オギノ式避妊法」を考案した荻野久作(写真はWikipediaより)

 避妊に対する伝統的なカトリックの考え方は、あらゆる人工的な方法を使うことは罪だというものだ。だが、教皇フランシスコは2月18日、蚊が媒介する「ジカ熱」が流行している地域では、避妊は正当化されるとコメントした。

 流行地では、新生児に発達障害が必発である小頭症が異常に多発しているからだ。

 教皇はこれまで、たとえジカウィルスに感染していたとしても、妊娠中絶は「絶対的に悪」で選択肢に上るべきではないとの姿勢を崩していなかったという。ところが実は、すでにローマ法王庁が唯一認めた避妊法がある。

 「オギノ式避妊法」で広く知られている、荻野久作(おぎのきゅうさく、1882~1975年)だ。愛知県豊橋市生まれの産婦人科医である。

 1912年、新潟市の竹山病院産婦人科に赴任した荻野は、不妊や多産で苦しむ農村女性の過酷な状況を目のあたりにした。不妊に悩む女性は、嫁として子を産めないことを責められ、多産を強いられて命を落とすケースも後を絶たなかった。

 「ヒトはいつ受胎するのか?」は、荻野にとって重要なテーマとなった。設備も資金もない中、荻野は患者さんから地道に聞き取りを重ねることで膨大なデータを収集し、排卵時期の特定に至った。

 子宮粘膜の増殖期は個人によって異なるが、黄体期は一定していると主張し、「排卵は次の月経第1日から逆算して14日プラスマイナス2日にある」とする荻野学説を唱えた(1924年)。

 実際、患者さんやトメ夫人にも協力してもらい、予定月経開始日から逆算した2週間前に最も受胎しやすいことを「実験」で確かめている。次男の故・荻野博氏(後に医師)は、こうして誕生した。

オギノ式は避妊法の研究ではない!

 しかし、例によって、一開業医の実績は日本の学会では認められなかった。ドイツ留学中(1930年)にドイツ語で発表した論文を読んだオーストリアのHermann Knaus(ヘルマン・クナウス)教授が、荻野学説を逆転させて避妊法に利用することを提唱した。だが、皮肉なことに荻野は、自身の学説を安易な避妊法として使うことに大いに反対していた。

 「避妊に失敗して、人工流産の道を選ぶ心ない男女が多いことを一体どう考えたらいいのだろうか。どうしても言っておきたいことがある。それは世の男性諸君がもっと真剣に深刻に子どもとは何であるかを考えるようになってほしいということである」

 「かつて私は荻野学説を発表した。しかし、それは、命を守るために生み出した学説であって、決して避妊法の研究ではなかった」(「オギノ式乱用者に告ぐ」『文藝春秋』1964年2月号)。

堤寛(つつみ・ゆたか)

2017年4月より、はるひ呼吸器病院(愛知県)病理診断科の病理部長。慶應義塾大学医学部卒、同大学大学院(病理系)修了。東海大学医学部に21年間在籍。2001〜2016年、藤田保健衛生大学医学部第一病理学教授。「患者さんに顔のみえる病理医」をモットーに、病理の立場から積極的に情報を発信。患者会NPO法人ぴあサポートわかば会とともに、がん患者の自立を支援。趣味はオーボエ演奏。著書に『病理医があかす タチのいいがん』(双葉社)、『病院でもらう病気で死ぬな』(角川新書、電子書籍)『父たちの大東亜戦争』(幻冬舎ルネッサンス、電子書籍)、『完全病理学各論(全12巻)』(学際企画)、『患者さんに顔のみえる病理医からのメッセージ』(三恵社)『患者さんに顔のみえる病理医の独り言.メディカルエッセイ集①〜⑥』(三恵社、電子書籍)など。

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