インタビュー 出生前診断の正しい知識を 第3回 胎児クリニック東京 中村靖院長

妊娠の継続か否かの決断は、ひとりひとりの妊婦さんで異なる

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大切な検査のひとつ超音波検査

 胎児クリニック東京で行うことのできる、妊娠初期における出生前診断の検査内容は、「血清マーカー」と「超音波検査」の2本柱からなる。妊婦さんの血液中のタンパク質やホルモン濃度を測定する「血清マーカー」と、胎児の形態的特徴について観察する「超音波検査」の組み合わせで、染色体異常の可能性と臓器や骨の発達といった形態的な異常の可能性の両方を見ることができる。いっぽう2013年4月から一部施設で臨床実験が始まった「新型出生前診断」は、妊婦さんの血液中に含まれる胎児のDNAを調べるものだが、現時点では、13番、18番、21番*の染色体が正常かどうかだけを見るものだ。しかし、いずれの検査も確定診断ではないので、仮に陽性(疑いあり)の結果が出た場合は、子宮に針を入れて羊水を採取して調べる羊水検査(妊娠16週目以降)か、胎盤の一部である絨毛(じゅうもう)を採取して調べる絨毛検査(妊娠11~13週目)に進むのが一般的だ。胎児クリニック東京でも、確定診断である羊水検査、絨毛検査を行うことができる。

「胎児診断」は染色体異常だけを見つけるのではない

「開院から1年以上が経ちましたが、たくさんの妊婦さんに御来院いただいています。やはり、高齢の方、不妊治療をなさった方が多いですね。しかし、高齢によって可能性が高くなるのはトリソミーという種類の染色体異常です。そのほかの多くの赤ちゃんの病気は、お母さんの年齢に関係なく、可能性があります。若い方にもぜひ、正しい『胎児診断』の情報を知っていただきたいですね」(中村院長。以下同)
 
 中村院長は、FMF(イギリス胎児医学財団)が認定する「胎児診断」の専門資格を持ち、日本では数少ない、超音波診断と遺伝医療の両方に長けた専門医である。

「日本では、毎年約100万人の赤ちゃんが誕生しています。約1%の赤ちゃんに染色体の本数や構造の異常、2~3%の赤ちゃんに心臓や血管の形態異常、口唇・口蓋裂、水頭症、消化管狭窄・閉鎖、腎・泌尿器系の異常、内反足、神経管閉鎖不全、骨系統疾患などが見られます。染色体以外の問題は、手術などによって治療できることが多いのです」
 
 四半世紀以上に渡って、「早くわかれば、早く治せる」をモットーに「胎児診断」にあたってきた中村院長は、マスコミによる出生前診断についての報道には違和感を感じることもあるという。

「あまりにも血液検査、染色体異常がクローズアップされすぎて、出生前診断といえば、初期の段階で染色体異常を見つけて、産まない選択をすることだというイメージが強くなりすぎているのではないでしょうか」

決断は、ひとりひとりの妊婦さんで異なる

 確かに、染色体異常は根本的な治療ができないため、仮に可能性が見つかった場合には、妊婦さんとその家族は難しい決断を迫られることになる。産まない選択をするためには期限があるので、動揺しながら短期間で決断しなければならない。このとき、どうするかを決めるのは、あくまで妊婦さんであって、医師ではない。そのため胎児クリニック東京では、日本でも有数の遺伝カウンセラーが、検査の前にガイダンスを行っている。正しい情報を持って、考えをまとめる手助けをするのだ。また、
「初産の方、不妊治療で授かった方、すでに何人かのお子さんをお持ちの方、障害のあるお子さんをお持ちの方、家族や親類の状況、現在の生活状況など、それぞれの方の事情によって選択は変わってきます」と、長年多くの妊婦さんによりそってきた中村院長は語る。院長は、ひとりひとりの妊婦さんの決断も見守ってきたのだ。

 そして、あくまで決断するのは妊婦さんだと断った上でそれでも、こう思うこともあるという。
「医師の立場からは、どんな病気でも治療の対象とし、治療によってより良い予後が期待できる可能性を追求したいという思いもあります。しかし、中には何の問題もなく生きていけると考えられる場合であっても、産まない選択をされることがあり、残念な思いをすることもあります。」
 
 いっぽう、染色体異常が見つかっても産むことを決める妊婦さんもいる。次回最終回は、「胎児診断」の意義について改めて考えてみたい。

*染色体の異常
・13トリソミー:13番染色体に1本過剰な染色体がある状態。精神発達の遅れや、さまざまな形態異常がみられる。多くは生後3ケ月以内に亡くなるといわれる。
・18トリソミー:18番染色体に1本過剰な染色体がある状態。精神発達の遅れや重度の疾患を合併する。多くは流産、死産、あるいは生後1年以内に亡くなるといわれる。
・21トリソミー(ダウン症候群):21番染色体に1本過剰な染色体がある状態で、これによって各種症状が生じた状態をダウン症候群と呼ぶ。精神、知能、体の発達が遅れる。

インタビュー第1回「出生前診断」は怖くない~妊婦さんとその家族のために正しい知識を~
インタビュー第2回ほとんどの妊婦さんが、出生前診断の正しい知識を持っていない
インタビュー第3回妊娠の継続か否かの決断は、ひとりひとりの妊婦さんで異なる
インタビュー第4回正しい知識を広め、希望者は誰でも「胎児診断」が受けられる社会を


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中村靖(なかむらやすし)
順天堂大学医学部卒業後、同大学医学部附属順天堂医院で、超音波診断、合併症妊娠の管理を中心とした診療・研究に従事。3科(産婦人科・小児科・小児外科)合同の「周産期カンファレンス」において、草創期の中心メンバー。

2005年には順天堂大学医学部附属練馬病院の産科婦人科科長に就任、その後順天堂大学助教授(先任准教授)。2009年、米国留学(ボストン小児病院、シンシナティ小児病院、フィラデルフィア小児病院)。10年からは、ベルギー・ルーベンカトリック大学産婦人科で胎児治療の臨床・研究に携わる。同年、帰国後、茅ヶ崎徳洲会総合病院(現・湘南藤沢徳洲会病院)に、「胎児科」を新設。13年9月、よりきめ細かな胎児診療をアクセスしやすい都心で提供するため、胎児クリニック東京を開院。

一方、勤務医時代からタバコ対策・禁煙指導にも積極的に関わり、順天堂大学および附属病院の禁煙化に尽力。産婦人科分野の禁煙指導の中心者として、禁煙ガイドラインの作成にも参加。現在もNPO法人禁煙ネット http://www.horae.dti.ne.jp/~kinennet/ で活動している。

臨床遺伝専門医、超音波専門医・指導医、産婦人科専門医、禁煙専門医、FMF(Fetal Medicine Foundation)認定妊娠初期超音波検査者。

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