シンガーソングライターの村田和人さんが「がん」で死去
山下達郎さんプロデュースのスマッシュヒット「一本の音楽」(1983年)などで知られるシンガーソングライターの村田和人さんが、2月22日に亡くなった。享年62だった。
朝日新聞の訃報記事では「大腸がん」が死因、ネット上では「転移性肝臓がん」と報じられた例も多いが、一方が誤報というわけではない。
故人の公式ブログに御子息の村田彼方さんが「大腸がんからの転移性肝臓がんにより亡くなりました」と綴られたのが正解だ。
この三者三様の書き方にこそ、大腸がんの怖さと決して一様ではない広がり方の特徴がよく表れているともいえるだろう。「浸潤」「転移」「播種」の順で説明してみよう。
粘膜を浸潤し、転移していく大腸がん
われわれの食べ物や便は大腸の内側を通っていくが、大腸がんはその最も表面にある粘膜にまず発生する。当初はその粘膜の表面上に留まるが、徐々に大きさを増すにつれ、粘膜→粘膜下層→筋層→漿膜の順で大腸の壁を食い込んで進んでいく。
この浸食ぶりが「浸潤」と呼ばれるもの。壁の奥まで深く食い込んだがん細胞はやがて腸の中にある血管やリンパ管にまで入り込み、リンパ節や他の臓器に飛び火していく。
この飛び火こそが「転移」、がんが悪性の病気とされる最大の理由がこの転移にある。がんは、そもそも発生した場所(=原発巣)でのみ大きくなるに留まらず、他所へ飛び火(=転移)しながら広がっていくもの。この転移先で増殖したがん組織が「転移巣」だ。
惜しまれながら62歳で亡くなられた村田さんの場合も、原発巣(=大腸)のがん細胞が浸潤を経て肝臓に転移したと訃報からは推測され、その増殖状態は「大腸がんの肝転移(巣)」と呼ばれる。
ただし、これは通常「肝臓がん」と呼ばれるものとは違う。肝臓にがんがある点では同じでも、そもそも肝臓の細胞から発生したがんではないからだ。あくまでも原発巣は大腸であり、上記のような過程を経ているため、「大腸がん(から)の転移性肝臓がん」とされるわけだ。なので治療もあくまで「大腸がん」として施される。