大腸がんの原因は解明されていないが、欧米型の高脂肪食、低繊維食との関連が疫学的研究から示唆されている。日本では戦後の食生活の欧米化とともに大腸がんによる死亡率は著しく増加し、近い将来、現在トップの胃がんを追い抜くことが予想されている。加えて、遺伝的素因も指摘されている。
大腸の構造は、内側から粘膜上皮・粘膜固有層・粘膜筋板・粘膜下層・固有筋層・漿膜となっている。がん細胞は粘膜上皮から発生し、徐々に外側へ発育。粘膜下層でとどまっているものが「早期がん」、固有筋層まで達したものが「進行がん」。胃がんでは「未分化型腺がん」から「高分化型腺がん」まで多彩だが、大腸がんにおいては、そのほとんどが「高分化型腺がん」である。また、良性の腫瘍=腺腫(せんしゅ)から発生するものと、正常の粘膜上皮から発生する(他のほとんどのがんは、このタイプ)ものがある。大腸において1センチを超える大きさの腺腫は、がん細胞を含む確率が高い。
大腸は小腸からつながる管腔臓器で、盲腸・上行結腸・横行結腸・下行結腸・S状結腸・直腸と続く。食物残渣が液状のまま流入する盲腸や上行結盲腸は、がん細胞は相当な大きさになっても症状が出ない。一方、S状結腸や直腸では管腔も狭く、食物残渣は普通便の状態になっているため、血便、便通異常などの症状を契機に発見されることが多い。
早期がんでは、あまり症状は出ない。また、大腸がんは高分化型腺がんのため、食道がんなどとは異なり、ある程度の大きさに隆起しても早期がんのケースもある。このようながんがS状結腸や直腸にできた場合、血便の症状が見られることもある。進行がんになれば、便注の細小化、便秘、下血、血便といった症状が出てくる。
食道や胃の場合と同様、エックス線検査・内視鏡検査という画像診断が主となる。しかし、大腸には常に便があり、食道や胃の検査のように、朝食を抜くだけでは検査ができない。また検査をする側にも高度な技術が必要となる。大腸検査ができる医者が少ないために考えられたのが便潜血反応である。
○便潜血反応
無症状の人たちから大腸がんの可能性の高い人を拾い上げていく検査。がんやポリープは組織が脆弱なため、出血や自壊を起こしやすく、そこから出た血液が便の中に混ざっているかどうかを見る。陽性の場合、大腸がんがある可能性が高いが、陰性の場合でも大腸がんを否定できない。便潜血陰性の大腸がんも存在するからだ。したがって、少しでも大腸がんを疑う症状がある人は、この検査を受けても意味がないので、エックス線検査か内視鏡検査を受ける必要がある。
○注腸検査
大腸のエックス線検査を注腸検査と呼ぶ。肛門からバリウムを注入し、その後に空気を入れ二重造影により大腸全体を造影する。前処置として、前日に残渣の少ない特別な食事を食べ、夜に検査用の下剤を服用。長所は大腸全体を造影できること。短所は大腸全体を満遍なく造影するには高度な技術が必要とされることである。
○大腸内視鏡検査
肛門から内視鏡を挿入し、大腸の粘膜を直接観察する検査。以前は注腸検査と同じ前処置をしていたが、現在は検査当日の朝に洗腸液を2リットル近く飲んでもらう方法が一般的。また、以前は内視鏡も太く硬かったため、かなりの苦痛を伴う検査だったが、現在、検査機器の改良により苦痛は軽減されている。
長所は粘膜を直接観察できること。組織を採取して顕微鏡で調べたり、内視鏡的粘膜切除術により早期がんの治療も可能だ。短所は肛門から入れた内視鏡を大腸の最深部である盲腸まで挿入するには高度な技術が必要なこと。また、視野角約120度前後の前方しか見えないため、数多ある大腸ひだの裏側のどこまで見えているか不確かなところだ。
いずれの検査にも長所と短所があり、検査をする側にも得意・不得意がある。大腸がんの検査は、それを専門としてトレーニングを受けてきた医師しかできないため、専門医を探し、よく相談のうえ検査計画を立てるべきである。
基本的には外科的手術(がん自体である原発巣と転移巣の切除)だが、大腸がんは食道がんなどと比べると転移が遅く、わずかに粘膜下層に達した程度のがんであれば、最近では内視鏡による治療が行われる(内視鏡的粘膜切除術)。また比較的大きな腫瘍でも他への転移がないことがわかれば、腹腔鏡によって大きな開腹をせずに治療することもできるようになった。
一方、進行がんにより便の通過障害をきたし、腸閉塞の状態になっている場合、根治は望めないが、腫瘍だけを切除することもある。高齢であったり、全身状態が悪い場合、内視鏡を使い腸閉塞を解除することもある。このほかに、抗がん剤による化学療法、放射線療法などを組み合わせることもある。
緑黄色野菜や根菜類を取り入れたバランスのよい食生活を心掛けるとともに、規則正しい排便習慣を身につけることが肝心。
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