日本アレルギー学会を含む世界のアレルギー関連学会の「ピーナツアレルギー発症予防に関するコンセンサスステートメント」(要約)によると、ピーナツアレルギーは先進国の子どもの1~3%で見られ、世界的に増加し続ける大変厄介な健康問題だという。米国ではこの10~15年で3倍に増加。欧米に比べて少なかったアジアやアフリカでも目立つようになってきたという。
日本アレルギー学会は、乳児の離乳時期において、なるべく"早く"ピーナツの摂取を開始する方が有益だと説明。6月10日、同学会のウェブサイトに次のような提案、見解を示した。
・ピーナツの導入を遅らせることが、ピーナツアレルギーの進展のリスクを増大させる可能性がある。
・ピーナツアレルギーが多い国では、乳児期の早期(4~11カ月)にピーナツを含む食品の摂取を開始することを推奨すべき。
・離乳早期にピーナツを積極的に摂取すべきかは、日本においてこれからの研究課題。
・早期摂取で予防効果を得られたのは、ピーナツアレルギーを発症していない乳児に限られる。すでに発症している、乳児期以降の子どものピーナツ摂取は極めて危険な行為である。
最悪の場合は気道をふさいで窒息
日本では現在、発症数や重篤度から勘案して7品目(卵、小麦、えび、かに、そば、落花生、乳)を「特定原材料」として表示義務がある。さらに通知で「特定原材料に準じるもの」として20品目の表示を奨励している。ちなみに、ピーナツは豆類で、アーモンド、クルミ、カシューナッツ、くりなどのナッツ(木の実)類ではない。
ピーナツアレルギーは「即時型」という、食後や接触後すぐ、数十分から2時間以内に症状がでるケースが大部分。じんましんや腫れ・赤み、かゆみなどの皮膚症状、そして特徴的なのが、鼻炎や喉内側の腫れ、喘息などの呼吸器症状だ。喉の内側の腫れは、最悪の場合、気道をふさいで窒息の危険がある。このような症状が出た人は、万が一の事態に備えて、自己注射(エピペン)の携帯を勧めている。また、一度症状がおさまったあと、半日から数日後に再発症するケースもあって注意が必要だ。
「少女がキス後に急死=犯人はピーナツ」は誤報?
英ノース・ヨークシャー州では昨年、有名カレー店のカレーに入っていたピーナツによって、激しいアナフィラキシーショックに見舞われた30代男性が死亡した。カレーには風味付けに「アーモンド使用」と称したものの、安価に抑えるため実際にはピーナツが加えられており、訴訟へと進展した。
また、ピーナツアレルギーの恐怖を印象付けたものが次のニュースだ。
カナダ・ケベック州の病院が2005年11月、15歳の少女が交際相手の少年とキス後、ピーナツアレルギーによるショック症状で急死したことを明らかにした。少年はキスする約9時間前にピーナツバターを塗ったトーストを食べており、「非常に稀なケースだ」と報道された。
ただし、これには後日談があり、半年後の2006年5月、「結局、少女の死はピーナツが原因ではなかった」と発表された。http://www.cbc.ca/news/canada/quebec-teen-died-of-asthma-not-nutty-kiss-1.603922
アレルゲン物質が唾液の中に残留するのはせいぜい一時間未満。9時間前にピーナツトーストを食べたボーイフレンドとキスをしたから、という理由は到底考えられないと述べ、その直接の死因は発表されていない。
アレルギーに関しては、いわくつきの事故やニュースが多いピーナツ。だが、米ペンシルベニア大学の研究グループの今年3月の報告によると、高脂肪の食事を取ったとき、ピーナツを含んだ食事をした人たちは正常な血管機能を保つことが分かった。
ピーナツは体に良い不飽和脂肪酸、タンパク質、抗酸化物質が豊富なほか、心臓病リスクを下げる作用のあるカリウムも多く含まれている。また血糖値を安定化させ、満腹ホルモンを高めるという効果もあるという、優れた食品だ。
今回の幼少期からの摂取がアレルギーを避けるという視点が、ほかの食物アレルギー解決につながることに期待したい。
(文=編集部)