生まれた時からアレルギーを背負っている場合も......
とある皮膚科クリニックの診察室――。何カ所も蚊に刺され、脚が腫れ上がった患者を診察しながら、「こじらせると皮膚炎になるからね。アレルギーはあるの?」と院長センセイは、土気色で薄紫がかったカサカサ顔をほころばせながら問いかけた。日本全国の皮膚科クリニックの待合室は、いつもカサカサ、ボツボツ肌に悩む患者で混み合っている。ぜんそくとセットのアトピー性皮膚炎、食物アレルギーによる皮膚炎、じんましん......などなど。
前述のように、皮膚科の医師でさえ自分のアトピー性皮膚炎を治すことができないこともある。まして患者は、どういう手立てがあるというのか......。それほど、アレルギー疾患を根本的に完治できない現実がある。おそらく、こんなに先端医療が発展している現代にもかかわらず、専門医だって医学の無力さ、未熟さを痛感しているはず。
●アレルギーの法律が見参!
アレルギー疾患は、遺伝、環境、食生活、生活習慣等のさまざまな原因が重なりあって発症すると言われている。産声を上げる前、胎児の時から食物アレルギーという宿命を背負わされた人も少なくない。その原因をはっきりと特定できないまま、対症療法に邁進しているのが現状だ。しかも全国津々浦々、アレルギー疾患に悩んでいる患者が増えていることは確か。
平成24年に東京の調布市で起きた学校給食による食物アレルギーの死亡事故もひとつのきっかけになったようだが、今年6月27日、国はアレルギー疾患対策基本法なるものを公布した。アレルギーを持つ人が安全かつ快適な生活を送ることができるよう、国をあげて取り組もうという前代未聞の法律である。いよいよ国民総アレルギー時代に突入したことを予感させる。
アレルギー疾患とは、気管支ぜんそく、アトピー性皮膚炎、アレルギー性鼻炎、アレルギー性結膜炎、花粉症、食物アレルギーなどが主な疾患だが、ほかにもアレルゲン(アレルギーの原因となるもの)が起因し、免疫反応によりヒトの生体に有害な疾患となるものも含まれる。
法制化により、国民は正しい知識を持ってアレルギー疾患の重症化を予防し、かつ症状の軽減に必要な注意を払うよう努め、医療関係者は国や地方公共団体が講ずるアレルギー対策に協力する一方、科学的知見に基づき、良質かつ適切な医療を施すなどを挙げている。学校や福祉施設なども同様だ。どれも当たり前のことだが、「もっとアレルギーに対して敏感になれ!」というわけだ。
●血液検査でアレルゲンを知ろう
地方自治体や医療機関はこぞってアレルギーの啓蒙活動に乗り出すことになったが、病院やクリニックではアレルギー科など専門科がもっと細分化されるだろう。毎年早春から悩まされる花粉症対策科、食物アレルギー科などができるかもしれない。
離乳食を始めたある乳児が、卵ボーロを食べたら顔が真っ赤になった。母親はどうしてこうなるのか最初は理解できなかったが、小児科で風邪の治療のついでに相談したら、「卵アレルギーかもしれない。血液検査をしましょう」と言われた。その結果、数値は低かったが、卵、豆類などいくつも植物アレルギーがあることが分かった。以来、大学病院の小児科で栄養指導を受け、3歳に成長したその子供は、食物に対する耐性、免疫力もついてほとんどの食品が食べられるようになったという。
食物アレルギーの中で最も多いのが卵アレルギー。卵黄にはアレルゲンはないが、卵白の蛋白質に反応するオボアルブミンというアレルゲンが悪さをする。そのほかに、そば、甲殻類(エビやカニなど)、小麦、鶏肉、乳製品、米などにもアレルギー反応を示す場合がある。食物以外では、国民病とも言えるスギ花粉のほか、ブタクサやダニ、ハウスダスト、猫の毛も。年齢とともに体質も変ってくるから、若い時はなかった花粉症が80歳になって突然発症したというケースもあるほどだ。
予防の意味でも、怪しいと思った場合は血液検査をしよう。しかし、アレルゲンが特定されたからといって、全ての人が前述の子供のように改善するとは限らないが......。
(文=編集部)