水木プロダクション公式サイト『ゲゲゲ通信』より
「ゲゲゲの鬼太郎」で有名な漫画家、水木しげるが11月30日の朝、多臓器不全のため都内の病院で逝去した。享年93歳。水木氏は先月11日に自宅で転倒して入院、硬膜下血腫で緊急手術を受けた後の死であった。故人の冥福をお祈りしたい。
朝の連続テレビ小説「ゲゲゲの女房」にも描かれていたが、水木氏は隻腕だった。というのも遣先のニューギニアで、敵の攻撃に遭い、左腕に大けがを負ってしまったからだ。
著書には次のように記されている。
「寝ているところへ、大きな翼の敵機のマークが低空に見えたので、穴の中に避難しようと思ったが、体があまり言うことをきかない。そこへ爆弾。爆風とともに左手にショック、と同時に鈍痛。「やられたっ」と思っているうちに痛みはだんだん大きくなり、ものが言えない。血はバケツに一杯ばかり出たらしい。あくる日、軍医が七特ナイフみたいなもので腕を切断したが、その時はモーローとしていて、痛くなかった」(「水木しげるのラバウル戦記」より)
麻酔なしで腕を切り落とされた水木氏は戦後、片腕というハンデを負いながらも、漫画家として見事大成した。
しかし彼のような例はまれだ。大半の傷痍軍人は復員後、定職に就けず、社会の最底辺の暮らしを余儀なくされたという。50代以上の方なら、駅前などで物乞いをする元傷痍軍人の姿を見たことがあるだろう。
医療技術はどこまで発達してきたか?
戦時中は不可能だった再接合や移植が、医療技術の発展によって、今や可能となった。
トラクターで両腕を失ったアメリカの少年、造型機で両手を失ったドミニカの男性、切断された手を一旦足に移植した中国の青年など。1962年、アメリカで成功して以来、再接合の手術は世界中で行われるようになる。そして、中にはほぼ元通りに機能回復した例もある。(http://karapaia.livedoor.biz/archives/52202159.html)
それには適切な処置が欠かせない。直接圧迫法などによる止血、そして切断された部位の氷水による保存。この2つがなされていれば、緊急手術によって再接合が可能となる。それには条件が付く。部位が清潔な状態で保存されていること、切断から遅くとも12時間以内だということ。条件が満たされていなければ、感染症の可能性などによって再接合が不可能となる。
他人の手足を外科手術で移植するという選択肢も考えられる。この場合、部位を提供するドナーがいるかという問題や以前のように動かすことが困難だという点、拒絶反応を防ぐための免疫抑制薬が必要になるなど、手術成功の可能性はもちろん、手術後のケアについてもやっかいで、何かと問題点が多い。
将来的に可能性がありそうなのが、完全に細胞が機能停止した腕や足を再生させ、再接合するという技術である。イギリスの科学雑誌「ニューサイエンティスト」に掲載された記事の要約を以下に記してみよう。記事のリンクは日本語版である。(http://enigme.black/2015060402)
アメリカのマサチューセッツ総合病院で行われた実験の順序は次の通り。
・死んだラットから前足を切断
・完全に機能停止したのを確認後、専用のアームに接続
・前足の血管と筋肉細胞に栄養液と酸素の注入を継続
・2-3週間後、新たに細胞が作られる
・ほかのラットに移植
・血が通い、動かすことに成功
実験に関わったハラルド・オット博士は次のように語っている。
「四肢であれば同じように再生させることが出来る。実験は死んだネズミから採取した腕でおこなわれたが、もちろん本体が生きていれば、再生させた自分の腕を自分自身に取り付けることができる。今回のbiolimb(バイオ手足)であれば、事故や戦争でちぎれ、時間が経過したり、一部が損傷してしまった自分の手足を取り付けることが出来る。そしてそのような場合、免疫抑制薬はいらない」
その後、博士はbiolimb(バイオ手足)を数十個作成、さらにはヒヒの腕にとりつける実験を開始しているそうだ。
ヒトにおいて、切断や欠損という事実といかに向き合うかという精神的な側面も非常に大きい。水木氏の偉業も精神的な強靭さがなければ達成できなかっただろう。しかし、四肢を切断してしまった人たちのQOL向上。そのためにはこの分野の技術進展が欠かせない。今後の医療技術の進歩に期待したい。
(文=編集部)