あまりに大量すぎる医薬品情報に翻弄される医療従事者と患者さん

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説明不足で患者さんが抗がん剤の服薬拒否

●事例2
 高齢女性、胃がんでS-1の内服が外来で開始になった患者さんです。調剤薬局から疑義照会がありました。「患者さん、本当は3日前からS-1開始予定だったのですが、具合が悪くて今日まで薬局に来られませんでした。どのように対応しますか?」でした。S-1というお薬は服用期間と休薬期間が決まっております。次回の外来日は休薬期間明けの日に決まっていましたので、「飲み終わりは当初の予定通りにしますので、3日分飲み残す方針でお願いします」と回答しました。

 その後、患者さん自身から電話が来ました。他の薬剤師が対応しました。内容は、「S-1内服前から皮疹があった。皮疹が治っていないのに飲んでいいのか?」でした。薬剤師は電子カルテの診療録を確認した上で「主治医は皮疹の事は把握していますので、内服して構いません。ただ、もしひどくなるようでしたらご連絡下さい」と返答しました。すると患者さん「不安なので、次の外来までS-1は飲みません」と言って電話を切りました。

 主治医に報告したところ、この電話の前日に直接電話がきたみたいでした。主治医としても説明に難渋していた様子でして、「飲まないって本人が言うなら、仕方がない。次の外来でまた考えます」という話で終わりました。

 結果的に、患者さんの不安が解消されず、服薬拒否に至ってしまった事例でした。我々薬剤師の「ひどくなったら連絡するように」では、患者さんの不安をあおるばかりで、全然相談になっていなかったな、と非常に反省しました。

情報不足で医療従事者もどう説明すればいいか分からない

●事例3
 これは、2019年2月に第二回薬理ゲノミクスセミナー(主催:日本臨床薬理学会、浜松)に参加した時の経験です。

 セミナー参加の動機は、2018年12月にペムブロリズマブ(キイトルーダ)が「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌」の適応を取得した事です。製薬企業主催の勉強会に参加し、その時に「我々のような一般病院はどのように対応すればよいか」と質問したところ、企業側は「うちらとしても情報を集めているところでして???」などと要領を得ない返答に終始し、結局分からずじまいでした。僕は、「この適応を取得したことで、我々のような一般病院でも遺伝子に関する倫理的配慮の体制が必要になってくるのでは」と思いましたが、情報があまりにもないことに焦りを感じました。

 セミナーには医師や看護師、薬剤師が主に参加していました。セミナーで学んだ事はもちろん参考になったのですが、それ以上に、会場を包む雰囲気とフロアーからの質問が大変印象的でした。参加者は「情報がない!」と切実な思いでセミナーに参加されている印象でした。最後の質疑応答で、とある一般病院に勤務する呼吸器内科医から「NCCオンコパネルと言ったって、たくさんの遺伝情報を提示されても、どれをどう患者さんに説明すればいいのか分からない。一般病院に勤める我々はどう対応すればよいのか?」という、悲鳴にも似た質問が出ました。全くその通りだと思いました。

 がんゲノム医療中核拠点病院に指定されている病院(厚生労働省 https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html、 閲覧日:2019年9月21日)には、認定遺伝カウンセラーがおり、有料ですが相談が受けられます。がんゲノム医療連携病院は、拠点病院と連携を取るよう決められていますので、ある程度の相談体制の質は担保できると思います。では、拠点病院でも連携病院でもない病院に勤務する我々はどうすればいいのでしょうか?きっと、患者さんはニュースなどで情報を得て相談に来るでしょう、現在、状況はほとんど進展していません。「暗たんたる思い」が偽らざる心境です。

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