「恥ずかしい」からネットで買ってしまう
2016年に製薬会社のファイザー、バイエル薬品、日本新薬、日本イーライリリーの4社が合同で調査したところ、国内のサイトから発注した薬の35.6%、タイのサイトから発注した薬の48%が偽造品だったという。
これらの薬はバイアグラなどの既成の薬品名を掲げ、パッケージも精巧で、素人目には本物と偽物の区別はつかない。ネット販売の薬には偽物が含まれていることを知りながら、「自分が買っているものだけは本物だ」と思い込んでいるケースもある。
「なかには、シアリス100と書いているなど、我々が見たら明らかに偽造品だと分かるものもあります。シアリスには、100mgの錠剤はないからです」
だが、医薬品のパッケージは、専門家の佐々木教授でさえ「普段あまり目にしない」。また、「錠剤だけだと、本物と見分けがつかない」という。
偽造品をつかまないためには、「やはりネットでの購入は避け、医療機関での処方が唯一の対策」(佐々木教授)である。では、なぜ偽造品が氾濫していると知りながらも、ネット購入する人が後を絶たないのだろうか?
佐々木教授は、「生命にかかわることではないから、医療機関の受診をおろそかにするのかもしれません。また、病院のスタッフとはいえ、他人に知られたくない、恥ずかしいという意識もあるのでしょう」と話す。
EDの背景に別の疾患が隠れている場合も
しかし、EDはありふれた病気で、決して恥ずかしがることなどないことは、冒頭の佐々木教授の言葉通りだ。
そして、偽造品対策に以外に、「ED治療は医療機関を受診すべき」という、もうひとつの大きな理由がある。それは、EDの背景に別の病気が隠れていることがあることだ。
「最近、勃起力が弱くなった、という場合でも、背景には動脈硬化が進み血管が拡張しなくなっていたり、糖尿病や高血圧の生活習慣病が潜んでいるケースがあります。医療機関なら、それらの診断・治療に早くつなぐことができる」
ED治療の相談ができる医療機関は、日本性機能学会のホームページに掲載されている専門医一覧から調べることもできる(日本性機能学会のホームページ:専門医一覧)。
自身の健康を守るためにも、EDは単に性機能だけの問題と思わず、気になる時には医療機関を受診してほしい。そして、ED治療薬のネット販売はサイトが本物らしく作られていても、その多くが偽造品であることを認識すべきである。
(取材・文=里中高志)
佐々木春明(ささき・はるあき)
昭和大学藤が丘病院副院長(泌尿器科教授)。1986年、昭和大学医学部卒業、99年、昭和大学藤が丘病院講師、2007年、同院泌尿器科准教授、12年同院泌尿器科教授、13年、同院副院長。日本泌尿器科学会・指導医、日本性機能学会・副理事長、日本性機能学会・東部支部長、日本性機能学会・ED診療ガイドライン作成委員。