かつて雑誌『サンデー毎日』に「タバコでインポになる」と題した記事が掲載された――。
記事は米国疾病対策センター(CDC)が発表した学術論文に基づくもので、31歳から49歳までの壮年期男性を対象とした調査の結果、1年間以上にわたって性交に十分な勃起が得られない状態を訴えたのは、非喫煙者の2.2%に対して、喫煙者が3.7%と有意に高率であったという。「インポテンツ(陰萎)」に悩む男性を治療するに当たって、禁煙の奨励は必須事項である。
インポテンツは一般に50歳以上に多く、糖尿病、高血圧などの生活習慣病によって助長される傾向がある。だが、性機能障害を訴えて来院する高齢男性においても、糖尿病などの病気の要因が見いだされるのは3分の1ほどにすぎない。
インポテンツの発症には、やはり何といっても、心理的要因が大きく関わる。60歳以上の男女を対象としたある調査では、男性の58%、女性の81%(配偶者がいる場合は、男性の43%、女性の45%)が、性生活に何らかの不満をいだいていたそうだ。
インポテンツから勃起障害(ED)という名称に
近年では、患者さんにとって侮蔑的で曖昧な言葉であるインポテンツの代わりに、「勃起障害(ED: erectile dysfunction)」という病名が用いられる。勃起に関わるホルモンは「血管作働性腸管ペプチド(VIP)」で、平滑筋弛緩作用や血管拡張作用の強い。
勃起は、陰茎海綿体に血液が充満することによって生じる。海綿体はヘチマ形の海綿体洞の集合体であり、ヘチマのヘタに相当する部分にらせん状にうねった「らせん動脈」が入る。このらせん動脈の中膜平滑筋には、おびただしい数の自律神経(副交感神経)が分布している。
性的興奮によって、これらの神経末端からアセチルコリンと同時にVIPが分泌されると、らせん動脈の平滑筋は弛緩し、血液が洞になだれこむ。結果、勃起がもたらされるのだ。
ちなみに、交感神経が興奮すると平滑筋は収縮し、勃起が収まる。喫煙はニコチンの作用により交感神経系の興奮状態を引き起こし、EDへとつながる。当然ながら、VIPの局所注射は持続性の勃起を誘発する。