連載「恐ろしい危険ドラッグ中毒」第45回

美味だが危険なフグの猛毒! 中毒は10年間で240件、有効な解毒薬はナシ

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美味な「フグ」の猛毒の危険!10年間で発生件数は240件、患者数は354人、死亡例は9人の画像1

この10年間でフグ中毒の発生件数は240件、患者数は354人、死亡例は9人(depositphotos.com)

 2018年に開催された日本中毒学会東日本地方会で、筑波大学医学医療系法医学講座の村松尚範医師は、以下のような症例報告を行った――。

 日本在住のタイ国籍の40歳代の女性(飲食店経営)が、市場で購入したショウサイフグを自分で調理して食べた直後に、嘔気、指先や口周囲の痺れを訴え、病院到着後には意識レベルが低下、数分後には心肺停止、人工呼吸管理などの集中治療が施されたが、入院後7日目に鬼籍に入った。

 その後、解剖が行われ、神経線維が集中する大脳髄質が特に侵されており、肝臓や腎臓にも壊死所見が判明したとのことであった。

 フグ中毒事件は過去にも有名人の死亡例がある――。

 1975年、美食家として知られていた歌舞伎俳優の八代目坂東三津五郎は、割烹料理店でフグの肝臓を4人前食べた後に急逝。また力士では、1933年、当時23歳で大関昇進を目前に控えていた関脇の沖ツ島が、弟子が調理したフグを大量に食べた後に死亡。

 さらに1963年、佐渡ケ嶽部屋で幕下以下の力士6人が、チャンコ料理でフグの肝臓を食べた後に中毒症状を呈した。病院に救急搬送されたが、1人は翌日に、もう1人は3日後に亡くなった。

フグ中毒の症状は重篤かつ急激に増悪する

 フグ中毒は、主に肝臓や卵巣に存在する神経毒である「テトロドトキシン」が起因物質となる。テトロデトキシンの濃度は、フグの種類、内臓などの部位、産地、季節により異なる。

 さらに、魚の毒性の個体差も認められている。すなわち、ある魚では食しても中毒症状を認めないが、別の魚では最悪のケースでは死に至ることもある。

 初期症状は、食後5~40分で、口唇周囲や四肢のしびれ感、嘔気、悪心などの消化器症状が出現する。その後、食後30~60分で、言語のもつれ、顔面の筋力低下、めまいなどが認められる。さらに増悪すると、数時間後には、全身麻痺や呼吸不全を経て、低血圧、不整脈、徐脈などを呈し、死に至ることもある。

 症状の経過が急速に増悪することが多く、重篤な症例では呼吸循環管理などの集中治療を要するので、早期に医療施設を受診しなければならない。

 残念ながら現在のところ、有効な解毒薬は存在しない。フグ中毒の致死率は60%にも上るとされ、死因は呼吸循環不全である。

横山隆(よこやま・たかし)

小笠原記念札幌病院腎臓内科。日本中毒学会認定クリニカルトキシコロジスト、日本腎臓学会および日本透析学会専門医、指導医。
1977年、札幌医科大学卒、青森県立病院、国立西札幌病院、東京女子医科大学腎臓病総合医療センター助手、札幌徳洲会病院腎臓内科部長、札幌東徳洲会病院腎臓内科・血液浄化センター長などを経て、2014年より札幌中央病院腎臓内科・透析センター長などをへて現職。
専門領域:急性薬物中毒患者の治療特に急性血液浄化療法、透析療法および急性、慢性腎臓病患者の治療。
所属学会:日本中毒学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本内科学会、日本小児科学会、日本アフェレシス学会、日本急性血液浄化学会、国際腎臓学会、米国腎臓学会、欧州透析移植学会など。

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