脳病変が起きた者の場合は……
一方、脳病変と犯罪行為の「前後関係」に着目したDarby氏らは、上記17人分のサンプルに加え、その「時間関係」が確認されていない別の犯罪者23人分の脳画像データも検証した。そちらの解析結果でも、やはり「特定の脳内ネットワークの関係」が示唆された。
Darby氏によれば、特定された脳内ネットワークは通常の健康人の場合、「道徳的な意思決定」に関与しているという。
要約すれば、人間の脳内では善悪の価値判断や自他共通の認識位と、それとは真逆の(?)功利性や非道徳的行動に関わる回路が綱引きしつつ最終判断を下しているが、脳病変が起きた者の場合は……。
犯罪を起こしやすくなる理由
今回の分析結果から「その道徳的意思決定ネットワークに異常があると、犯罪を起こしやすくなる理由を説明できる」とDarby氏は自信を深めている。
もちろん、その領域の病変に見舞われた人の誰もが犯罪を起こすわけではなく、「犯罪行為には、遺伝的/環境的/社会的要因も重要な役割を果たすのは言うまでもない」と報告は強調している。
「従来の研究においても、一部、犯罪者の脳異常が認められてきた報告例はある。ところがほとんどの場合、その脳異常がはたして犯罪行為の原因であるのか、それとも結果に過ぎないのか、あるいは単なる偶然なのかまでは明かされていない」(Darby氏)
そして同氏は「脳病変がある人に対して、その行為の法的責任を問うべきなのか否か――。最終的には、社会がその答えを出すべき問題であることに変わりはない」と言う。
2年前に報告されたモントリオール大学(カナダ)とキングス・カレッジ・ロンドン(英国)の共同研究によれば、「暴力犯罪者の5人に1人がサイコパス」であり、彼らが過去の犯罪から学ぶことなく「再犯率が高いのは脳の構造に原因があるから」との知見もある。
しかし、昨今の国内の刺傷/刺殺事件(あるいはクルマの追い回し案件など)の動機や経緯を一読すると、脳病変云々以前の「ムカツキ」や「苛立ち」という原因が多く見られ、むしろ身震いしてしまうという人も少なくないだろう。病変も怖いが「豹変」も侮れない。
(文=編集部)