暴力、交通事故、自傷、自殺...救急搬送に見る危険ドラッグ使用者を襲う恐怖の実態

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利用者のほとんどが吸入で薬物を体内に入れる

 脱法ドラッグを服用した運転手による事故が急増し、厚生労働省がその呼称を「危険ドラッグ」に変更した直後の7月25日、第36回日本中毒学会総会・学術集会で危険ドラッグに関する全国的な調査の報告が行われた。

 この報告は、日本中毒学会と日本救急医学会の合同委員会が、2006年1月から12年12月まで全国の救急施設に危険ドラッグを使用後に救急搬送された患者518例について調査したものだ。

 これによると10年1例、11年48例だったものが、12年には469例と急増している。その8割以上が男性で、年代別には20~30代で約8割、その多くが植物片に添加された合成薬物を吸入(87.5%)していた。そのうち全体の約1割にあたる56例で、対人・対物への暴力、交通事故、自傷行為、自殺企図などの有害行為が見られている。

 呼吸数、心拍数、血圧、体温の上昇などのバイタルサインの異常以外で現れた身体症状としては、嘔吐(24.9%)、悪心(15.6%)、動悸(14.5%)、精神症状としては、不穏・興奮(23.6%)、不安・恐怖(10.4%)、錯乱(9.3%)、異常行動(6.4%)、痙攣発作(2.7%)、パニック発作(2.7%)、幻覚・妄想(2.7%)。発現頻度の高かった身体合併症としては、横紋筋細胞が融解し筋細胞内の成分が血中に流出する横紋筋融解症(10%)、腎障害(4.8%)、肝障害(4.8%)、外傷(1.7%)が見られた。35.1%の患者が入院し、1.9%にあたる10例が精神科病床へ転棟または転院し、3例は警察へ引き渡されている。

●"いたちごっこ"からの脱却は社会全体が一体となって

 この調査データは、研究参加を求めた467救急施設のうち同意を得られたわずか60施設からアンケート回答を集計したものだ。つまり、この数字はあくまでも氷山の一角だと考えたほうがいい。しかし、危険ドラッグの使用は身体の不調や神経精神症状ばかりではなく、横紋筋融解症や身体外傷などの合併症を生じる可能性が高いことを示している。つまり使用者自身の生命の危機に結びつく。
 
 一般演題で発表された症例では、30代の男性が店頭で購入した薬物を肛門に挿入、精神錯乱に陥り保育園に包丁を持って乗り込み、警察に逮捕・収監された後、8日目に心肺停止に至り、病院でかろうじて救命されている。また、20代の男性が危険ドラッグを友人と一緒に摂取した5時間後、痙攣が出はじめ不穏行動となって救急搬送されたが、入院4日目に多臓器不全を起こし命を落としている。

 合同委員会の委員の1人で、札幌センチュリー病院の横山隆医師は、「医療現場ではあらゆる有害事象に直面している。危険な薬物は構造の一部を変えた物質が次々と出ており、いわば"いたちごっこ"の状態にある。警察で押収された薬物や医療機関の検査などで検出される薬物に関するデータの共有がなかなか進まないことが大きな問題。さらには全国の救急医療の現場で薬物中毒に精通した医師が極端に少ないことも今後の課題。今こそ立法、行政、司法の三権と医学会、医療機関そして社会全体が一体となって解決の道を模索すべき」と述べている。
【ビジネスジャーナル初出】(2014年9月)
(文=チーム・ヘルスプレス)

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