かかとのシコリから悪臭が……
患者は72歳の男性。ヒ素やタールへの暴露歴や職業歴はない。3年前に右のかかとのしこり(結節)に気づいた。2年前から、しこりの中央部に潰瘍が生じ、周囲が徐々に不規則に盛りあがってきた。痛みはないが、悪臭がある。
生検によって「角化型(分化型)」の扁平上皮がんと病理診断され、がんは手術で取り除かれ皮膚が移植された。手術前の状態がこれだ。
かかとの皮膚に、「娘結節」*を伴う潰瘍形成性腫瘍(径3.5cm)が認められる。「周堤」が形成され、健常な皮膚との境界は明らかだ。潰瘍底部には、出血と膿が付着して異臭を放っている。基礎病変としての「瘢痕」ははっきりしない。
*娘結節(むすめけっせつ):大きめの結節(親)の近くにある小さい結節(娘)を指す。衛星(サテライト)結節ともいう。
顕微鏡的には、核異型の目立つ「異型扁平上皮細胞」が、真皮内に浸潤して増殖していた。がん細胞の角化傾向が強く、「がん真珠」を形成する高分化型扁平上皮がんだった。がん真珠とは、がん細胞のつくる角化物の塊が、真珠のように白く輝いて見えることから名づけられた。
この症例では、がんは手術で完全に取り切れたため、その後は治療もせずに経過を監察したところ、再発はみられなかった。見た目はとても派手な病変だが、痛みはなく、予後は悪くない。ソケイ部リンパ節への転移の頻度は低い。悪臭は細菌の二次感染が原因だった。
特殊な職業歴や瘢痕形成がなく、日光に露出しにくい健康な皮膚にできた、このケースの皮膚がんの原因は不明だ。子宮頸がんと同様に、がん原性イボウイルスによる発がんの可能性は否定できない。ちなみに、小児期に多いイボは良性だ。決してがん化しないのでご安心を!
(文=堤寛)