「医師は患者とのコミュニケーション能力を向上させる必要がある」
Jerant氏は「医師にとって最大の問題は、患者の満足度スコアが医師の賃金に直結するケースが増えていることだ。実際はそれほど役に立たないと分かっていても、患者の要求に従って鎮痛薬を処方したり検査を行ったりしてしまう医師は少なくな。患者の満足度スコアを反映させた報酬のあり方を再考すべきだ」と指摘している。
米国内科学会(ACP)臨床プログラムのCynthia Smith氏は「最近はテレビで新薬の情報を得たり、自分の症状についてインターネットで調べて受診する患者が多い。たとえば、いとこに脳腫瘍患者がいる頭痛患者の場合、頭痛についてインターネットで検索した時に画像検査で脳腫瘍を発見できると知れば、画像検査を要求するだろう」と話す。
なお、今回の研究では抗菌薬の処方の要求は少なく(8.1%)、またこの要求に応じてもらえなくても満足度スコアはわずかに上昇した。
Jerant氏は「抗菌薬の不適切な処方に起因した耐性菌の増加が認知されてきたのは、希望の持てる結果だ。鎮痛薬の問題も広く周知されれば状況は変わってくるだろう」と期待を寄せる。
また、Jerant氏とSmith氏はともに「医師は患者とのコミュニケーション能力を向上させる必要がある」と強調。Smith氏は「薬や検査を求める患者の背景にある気持ちを探り、理解する必要がある」と語る。
一方、Jerant氏は医師に対し、「患者の要求を全面的に否定するのではなく、お互いの妥協点を見出すよう心掛けるとよい」とアドバイス。患者の不安を認めた上で、正直に「この薬や検査は治療には役立たないと考えている」と伝え、しばらく様子を見ることを提案する「watchful waiting(注意深い経過観察)」のアプローチが有望なので、臨床試験でこのアプローチの効果を検証したいと語る。
子を失う親のような気持ちで医師は患者に接することができるか?
患者と医師――。医療の消費者と供給者。立ち位置も利害も相反する。冷たい診療室で対峙するだけでは、インフォードコンセントなど馬耳東風。トレードオフ(利害相反)すればこそ、膝寄せ合い、語り合う時間も空間も精神力も必要だ。
患者と医師――。医療という名の列車に乗り合わせた乗客同士のようなもの。話し上手は聞き上手。触れ合う場数、交わす言葉数が重なれば重なるほど、相手の気持ちが近くなる。キャッチボールの球数が増えれば増えるほど、ザイオンス効果で愛着感も好感度も熱くなる。
患者と医師――。リスクを賢明に克服したい弱者とリスクを賢明に回避したい強者のパートナーシップ。一筋縄に行くわけがない。そう諦めるか、勇気を持って立ち向かって、協働するか?
先人たちの至言を噛み締めながら考えよう。
寺田寅彦「健康な人には病気になる心配があるが、病人には回復するという楽しみがある」。
立川談志「がんは未練の整理にいい」。
正岡子規「死は恐ろしくはないのであるが、苦が恐ろしいのだ」。
フローレンス・ナイチンゲール「子を失う親のような気持ちで、患者に接することのできない、そのような共感性のない人がいるとしたら、今すぐこの場から去りなさい」。
(文=編集部)