患者側も医者側も医療訴訟は避けたいもの(shutterstock.com)
風邪で病院へ行った際、処方された医薬品の成分、主作用、副作用について、医師から説明されたとしても、それを100パーセント理解できる患者はほとんどいないだろう。もし理解できたとしても、2年も経ては医薬品は改良され、その情報の変化に対応することは不可能だ。
つまり、医療サービスには、供給側(医師や医療機関)と受け手側(患者や家族)との間に、圧倒的で、ある意味、絶望的なほどの格差が存在している。
そして、医療は不確実なものでもある。ある患者に有効な治療法が、別の患者にまったく同じように効果があるとは限らない。ある人にはアレルギー反応があり、特定の医薬品は処方することができないことがある。また高齢者の患者であれば、外科による開腹手術に耐えられる体力がないかもしれない。
このような不確実性をはらんだ医療という営みには、ある一定の確率で「医療事故」という、あってはならない事態が発生する……。
今年10月からスタートした「医療事故調査制度」とは?
たとえば、家族が盲腸で手術を受けたとしよう。簡単な手術だと信じていた。しかし、その患者は植物状態になってしまった。あなたは、なぜそうなったのかを医師や医療機関に問う。しかし、病院は家族が納得できる回答を出させなかった。その結果、医療訴訟が始まる――。
これは患者にとっても病院にとっても不幸なことだ。双方ともに信頼関係がなくなった上での訴訟である。しかも、医療事故訴訟を得意とする弁護士が極めて少ないため、多くのケースでは原告(患者側)が不利な訴訟としてスタートする。その結果、原告が敗訴するケースも少なくない。さらに、民事訴訟だけでは納得できず、刑事事件として訴えるケースもある。
数々の医療訴訟の歴史のなかで、患者側原告は「医療事故の真実を明らかにするには、医療訴訟では不十分で、医療事故を調査する専門的な第三者が必要だ」と政府に働きかけた。病院側も「医療事故が刑事事件に発展することをなんとしても避けたい」と考えた。
こうしてできたのが、今年10月からスタートした「医療事故調査制度」だ。
この制度によって、医療行為のなかで予期しない患者の死亡事故などが起きたとき、第三者機関である「日本医療安全調査機構」に届け出ることができるようになった。そして、事故があった医療機関による「院内調査」と、遺族への調査結果の説明が法律で義務づけられた。