シリーズ「中村祐輔のシカゴ便り」第19回

リキッドバイオプシーは「がん医療変革」につながる!臨床応用可能であることを示した点が大きい

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リキッドバイオプシーと呼ばれる方法で、がんのスクリーニングを行った結果を報告。臨床応用可能であることを示した点が大きい 。(depositphotos.com)

 先週号の「Science Translational Medicine」誌に「Direct detection of early-stage cancers using circulating tumor DNA(早期段階のがんでも、血中を流れているがん細胞由来のDNAを利用して検出できる)」というタイトルの論文が掲載された。

 このブログでも繰り返して述べているが、がんを治癒させる最大の切り札は、早く見つけることだ。元外科医というのではなく科学的にも、外科的切除は固形がんに対して絶対的なエースだ。第1・2期の段階で見つければ、多くのがんでは非常に治癒率が高い。

 また、再発を超早期(CT検査やMRI検査で検出しにくいレベル)で診断でき、その段階で治療を開始すれば、「再発がんは治癒できない・しにくい」という固定観念を崩すことができると私は信じている。

大規模例で検討し臨床応用可能であることを示した点が大きい

 しかし、簡便な手法で比較的安価な「がん」のスクリーニング方法は確立されていない。

 この論文は、「リキッドバイオプシー」と呼ばれる方法で、がんのスクリーニングを行った結果を報告している。方法論自体はたいしたことはないが、大規模例で検討し、臨床応用可能であることを示した点が大きい。著者らは、血漿(血液の液体成分)からDNAを取り出し、それに(がん細胞由来と考えられる)異常なDNAを含まれるかどうかを調べた。血液で診断できれば、検査を受ける人にとっては、わずか1〜2分の手間で済む。

 この研究では、58種類のがん関連遺伝子(合計8万1000塩基)のDNAシークエンスを行った。44人の健常人(本当に何もないかどうかはわからないが)でも、16%で(がんの発症に関連すると考えられない)遺伝子に変化が認められた。おそらく、血液幹細胞に遺伝子変化が起こり、それらを持つ血液幹細胞が増えたために、混じりこんだと推測されている。

 ここは重要なポイントであり、「遺伝子変化=遺伝子が異常な働きを持つ」ということではない。また、われわれの細胞は日常的にこのような遺伝子変化を蓄積していることを知っておく必要がある。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

がん研究会がんプレシジョン医療研究センター所長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長、2012年4月〜2018年6月、シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長を経て、2016年10月20より現職。2018年4月 内閣府戦略的イノベーション創造プログラム(SIP)プログラムディレクターも務める。

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