中村祐輔のシカゴ便り15

がん検診を大きく変えるリキッドバイオプシー~がん患者の半数が治癒可能になる時代③

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検診技術の標準化が必須 (depositphotos.com)

プレシジョン医療(*1)には、当然ながら予防や早期発見も含まれる。肝炎ワクチンやパピローマワクチン(現在では、子宮頚がんだけでなく、頭頸部癌の予防につながると考えられている)など有効な手段だ。

 そして、個人ごとの遺伝的リスクに応じた、がん予防プログラムや検診プログラムの導入が必要だと思う。中韓では、すでに生命保険・医療保険企業と連携する形で、トータルヘルスケアシステムが開始されている。糖尿病など薬物治療ではなく、運動療法のアドバイスまで含めたサービスが提供されている。

検査の侵襲性では有力なリキッドバイプシー

 日本では、肺がん検診、胃がん検診、乳がん検診、子宮がん検診などが実施されているが、検診率は、まだまだ、満足の行くレベルではない。大腸がんなどを本格的にスクリーニングするには、X線検査や内視鏡が必要だが、大腸を空っぽにする前処置が結構大変だ。私も何度か経験があるが、何度もトイレに駆け込むのは大変だし、油断するとお漏らししてしまいそうだ。

 そこで可能性があるのがリキッドバイプシー(*2)だ。リキッドバイプシーの利用目的の一つは、がんの早期発見だ。

 検査において重要な項目は、検査の侵襲性・感度・精度だが、リキッドバイオプシーは間違いなく、侵襲の程度は低い。しかし、理論的には、ステージ1・2のがんをすべて見つけることは難しい。大腸がんの場合、ステージ1・2で何らかの異常が見つかるのは50-60%程度だ。しかし、異常が見つかれば、何らかの病変の存在する確率は高い。

 技術的かつ論理的な限界は、血液(血漿)中に含まれるDNAの量だ。一般的な検査としては、血液7-10ccで答えが出ないといけない。血漿から数十ng(1ngナノグラムは1グラムの10億分の1)が回収でき、そのうち5-10ngのDNAが利用されることが多いように思うが、この量は結構厳しい。

 1個の細胞に含まれるDNAは約6.6pg(pgピコグラムは1グラムの1兆分の1;ピコ太郎とは何の関係もないと思う)であるので、6.6ngで1000細胞相当だ。
一つの細胞には2ゲノムあるので、5-10ngだと2000ゲノム程度しかない。

 しかも、DNAの長さが短いので、遺伝子を増やす操作(増幅)する際にも効率が悪くなり、実際には1000分子相当分しか増幅できないことになる。検出率を上げようとすると、当然ながら量を多くした方が良いが、それに応じて、手間もかかり、検査料金も高くなる。新しい技術の限界を知った上で技術を利用すればいいのだが、それができないのが問題だ。

中村祐輔(なかむら・ゆうすけ)

シカゴ大学医学部内科・外科教授兼個別化医療センター副センター長。1977年、大阪大学医学部卒業。大阪大学医学部付属病院外科ならびに関連施設での外科勤務を経て、84〜89年、ユタ大学ハワードヒューズ研究所研究員、医学部人類遺伝学教室助教授。89〜94年、(財)癌研究会癌研究所生化学部長。94年、東京大学医科学研究所分子病態研究施設教授。95〜2011年、同研究所ヒトゲノム解析センター長。2005〜2010年、理化学研究所ゲノム医科学研究センター長(併任)。2011年、内閣官房参与内閣官房医療イノベーション推進室長を経て、2012年4月より現職。

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