解離性大動脈瘤(画像はモザイク加工のもの)
2013年の暮れに飛び込んできた、音楽家の大瀧詠一さん(65歳)急逝の第一報は「夕食後のリンゴを食べている最中に突然倒れ……」という、にわかには信じがたい状況説明だった。
一方、2015年の暮れ、タレントの笑福亭笑瓶さん(59歳)がドクターヘリで緊急搬送された際は「ゴルフの最中に突如、胸と背中に激しい痛みを訴え……」と報じられた。笑瓶さんは幸い安静治療で回復し、仕事に復帰している。
いずれも後日談として公表された病名は「解離性大動脈瘤」。タレントが患った症例を遡れば、加藤茶さんが2006年秋に同病態で10時間に及ぶ大手術を経て復帰した(当時63歳)。民放の健康番組企画でMRI検査を受けた2014年には、さらに「椎骨動脈瘤解離」が発見されている。
少し古いが、コメディアンの初代・三波伸介さんが52歳の若さで1982年12月に急死したのは、解離性大動脈瘤が原因だった。1981年4月には名優、石原裕次郎さんが解離性大動脈瘤に襲われた。大学病院での緊急手術で奇跡の大生還したのは46歳のとき。彼が肝臓がんで亡くなったのは6年後の1987年7月のことだった。
このように近年、有名人絡みの病気報でもたびたび耳にする機会が増えている「解離性大動脈瘤」の正体とは? 共通の特徴は「直前まで元気はつらつで突然死すること」だ。
「解離性大動脈瘤(大動脈解離症)」は高血圧が原因の1つ
「解離性大動脈瘤」は「大動脈解離症」ともよばれる。「なんらかの原因」で大動脈壁に亀裂が生じ、血液が動脈壁内に入り込むことで「なんらかの変化」が生じ、血管壁が連続的に解離する――というあいまいな表現が物語るとおり、その多くは原因不明である。
多くの患者に高血圧を伴うため、高血圧による大動脈壁の傷害が原因の1つとされている。頻度は、男性の方が女性より2~3倍多い。
顕微鏡で見ると、解離した大動脈に「嚢胞性中膜壊死」とよばれる小病変が観察されることがある。これは、局所的な中膜平滑筋と弾性線維の消失および酸性ムコ多糖類の沈着が特徴である。
病理学的に、この病変が大動脈解離の原因として重視されてきたが、最近では否定的見解が少なくない。
膠原線維(コラーゲン)の先天的な異常を示す、まれな遺伝病の「マルファン症候群」や「エーラース・ダンロス症候群」では、解離性大動脈瘤をしばしば合併する。つまり、大動脈壁の結合組織の脆弱性が大動脈の解離を引き起こす可能性が高い。
大動脈壁の裂けるきっかけは?
解離のきっかけとなる大動脈壁の裂け目(エントリー)は、心臓に近い大動脈(上行大動脈や弓部大動脈)に多い。解離が進行した末梢部で再び動脈の内腔へと血液が戻る(リエントリー)こともある。リエントリーがうまく機能すると、病態が安定した慢性大動脈解離症となる。
死因としては、①大動脈壁の破裂による出血死、②心タンポナーデ(心臓と心臓を覆う心外膜の間に大量の血液が溜まる状態)による心臓の運動停止、③大動脈の枝(冠状動脈、頸動脈、腎動脈)の血流障害による臓器不全があげられる。
まれに、加藤茶さんの2つめの病変のように、中くらいの太さの筋性動脈(脳底動脈、椎骨動脈、腎動脈、脾動脈、腸間膜動脈など)に解離が生じる場合もあり、病因として「区域性動脈中膜融解」が提唱されている。