コンビニよりも多い歯科医院、乱立とあまりに低い診療報酬で崩壊必至 在宅診療にわずかな望み?

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高額な医療機器が開業時から大きな負担に(shutterstock.com)

 こと歯医者の話になると、「歯医者はえげつない商売をしている」「歯を削っては抜き、抜いては詰め、たんまり稼いでいる」「拝金主義の権化だ。金儲けの亡者だ」そんな掃いて捨てるほどの悪態や痛罵や批判が歯医者の鼻先に浴びせかけられる。
 
 なぜ歯医者は世間から皮肉めいた視線を向けられ、世間からソッポを向かれるのか?なぜ世間と齟齬(そご)が生じるばかりで、噛み合ないのか?今、何が起きているのか?日本の歯科医療の実態を洗い出してみる。

ワーキングプア化する歯科医師の悲劇!

「歯科医自殺で妻を書類送検。『死ね!』と教唆(きょうさ)容疑」(共同通信社2014年12月18日)。
 記事によれば、警視庁滝野川署は歯科医師の夫に「死んで生命保険で借金を返せ!」などと繰り返し迫り、夫を自殺に追い込んだ歯科衛生士の妻を自殺教唆の容疑で書類送検した。

 妻は夫に「返済するアテのない多額の借金をした!死んで返せ!」と暴言を吐き、携帯電話の全画面に「死ね!」の文字を連ねたメールを送り付けた。その直後の12月、あまりにも熾烈な妻の誹謗・叱責に耐えかねて、夫は自宅で首吊り自殺を図った。

 夫は高額な診療機器や機材を購入し、医院経営を軌道に乗せるために多額の借り入れに走った。妻はメールを送ったのは事実だが、まさか死ぬとは思わなかったなどと容疑を否認した。

 これは決して荒唐無稽な犯罪事件とは思えない。コンビニよりも多い歯科医院の乱立、競争の激化、来院患者の激減、収入減、資金繰りの悪化、医院格差の拡大。その逆境と試練の果てに、ワーキングプア化する歯科医師が転落した悲劇ではないだろうか。

歯科医師の4〜5人に1人は年収300万円未満

 『歯科医療白書2013年度版』(公益社団法人日本歯科医師会)を見ると、歯科医療が抱えている病巣があらわになる。2014年12月31日現在、歯科医師数は 103,972人(男性80,544人、女性23,428人)。保険診療だけで安定した収入が得られる人口10万人当たりの適正な歯科医師数は50人だが、全国では81.8人、首都圏では120人とかなり過剰だ。歯科医院は約6万8000軒。約5万店あるコンビニより多い。

 また、厚生労働省『平成27年賃金構造基本統計調査』によれば、歯科医師の平均年収は約655万円(38.2歳)だが、収入の最も低いグループの平均月収は約15万7000円。歯科医師の4〜5人に1人は年収300万円未満だ。

 歯科医院が抱える問題点は何か?
第1は、開業コスト(イニシャルコスト)が極めて高い点だ。

 土地や自己資金が潤沢なケースは少ない。多くの歯科医院は、土地購入費、建築費、テナント費をはじめ、高額な治療機器の購入費・メンテナンス費、材料の購入費、光熱費から、歯科衛生士・歯科助手・受付スタッフの人件費まで、最低でも数千万円以上のイニシャルコストの負担を強いられる。

 つまり、歯科医院は、開業当初から大口の投資に伴う多額のローン返済に追われる。この避けられない高コスト体質が歯科医療の質や診療方針にさまざまな重い影を投げかける。

 第2は、保険診療の限界と保険外診療(自由診療)の高いハードルだ、

 歯科医院が保険診療だけで経営を維持するために必要な患者数は、1日当たり約30人とされる。だが、適切かつ十分な治療を徹底するためには、1人の歯科医師当たり1日7~8人が限界なので、経営はまず成り立たない。しかも、歯科医院に支払われる診療報酬の据え置きが続いているため、常に苦しい収支状況に追い込まれている。

 したがって、診療シフトを保険診療から保険外診療に移すことが最良の選択肢になる。保険外診療は、健康保険が適用されないため、患者が治療費を全額負担することから、患者の経済的な負担は大きいが、患者ニーズに即した満足度が高い根本的な治療がかなうメリットがある。

 だが、大きな課題が立ち塞がる。保険外診療は、高度で専門的な知識とスキルが要求されるだけでなく、たとえば矯正歯科の認定医や歯周病の専門医の修得には時間もコストもかかる。その結果、経営がじり貧状態のまま、技術力不足のために保険外診療に移行することは困難になるのだ。

 このような苦しいジレンマを回避しようと、困窮した歯科医院は、たとえば健全歯の抜歯、不必要な補綴や充填、X線撮影などの過剰な診断・治療によって保険点数を稼ごうとするため、医療の質が低下する。この悪循環に陥れば陥るほど、患者のクレームやトラブルが発生し、患者の足はますます遠のき、資金繰りはさらに悪化するので、倒産や廃業の道を辿るリスクが高まる。

 打開策はないのだろうか?歯科医院の再生の道はあるのだろうか?

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