あなたの街に歯医者がいなくなる?shutterstock.com
世界に誇れる日本の国民皆保険。歯科医院に行けば当然のごとく保険証を窓口に出し、治療を受ける。予防から義歯、歯周病まで保険治療で出来る範囲は広い。一部の治療(インプラント、セラミックの被せ物など)を除き、患者は均等に高度な歯科医療を受けることができる。保険証1枚あれば安心して受けられる日本の医療。しかし今、歯科ではこの国民皆保険は崩れようとしている。いや、もう一部は崩れている。
実態に合わない歯科治療費
国民皆保険を崩す最も大きな原因が低歯科診療報酬だ。
ほとんどの歯科医の収入は診療報酬によって決まる。治療費の値段だ。患者は診察後、治療費の一部(1~3割分)を窓口で支払う。この窓口負担と保険者の合算が歯科医院の収入となる(自費を除く)。日本はこの歯科診療報酬が極端に低い。
例えば、毎月、歯のクリーニングをした場合、日本ではおよそ700~2400円ほどの治療費だが、米国のニューヨーク州では11400~14760円かかる。抜歯(簡単なもの)は、日本が260~780円なのに対して、ニューヨーク州では18240~27600円だ。毎月の保険料を支払っても日本の歯科治療費は著しく安い。また、日本は口腔に関する相談料は基本的に無料だが、米国では10000円ほどかかる。
当院に来院する米国在住の日本人の患者は、歯の治療をするためだけに帰国する。国民保険は所有していないが、米国の保険に加入して治療費を支払うより、日本で歯科診療報酬の全額を実費で払っても治療費が安くなるからだ。
よく窓口で歯科の治療費が高いと訴える人がいるが、これは医科と比較した認識から出ている。歯科医療費が高く感じるのは、1人あたりの治療時間が長く(医科平均9.5分、歯科平均22.7分)、同時に複数の処置をするためだ。ちなみに医科1分あたりの治療費は歯科の2.8倍だ。総医療費が上がっている中、歯科の総医療費の割合は2001年8.5%から2016年には7.0%まで下がり続けている。歯科治療費は医療費全体から比べてみても高くない。
治療費が安いため成功率が下がる治療もある。その最たるものが歯の根の治療(根幹治療)だ。根管治療は歯科治療のメインの一つであり、一般歯科開業医のこの治療に占めるウエイトは高い。
通常、前歯1本の根管治療をした場合、歯科医院の収入はおよそ4600円だ。
根管治療の技術は飛躍的に進歩しており、使い捨ての器具が多数ある。その材料費だけでも5000円以上かかり、備え付けの器具は200~1000万円と高額なものが多い。
日本の歯科医師は最新治療をするには自腹を切るしかないが、そんな余裕がある歯科医はほとんどいない。旧態依然とした昔の治療しかできない歯科医が多数いる。古い技術しか持てない日本の歯科医師の根管治療の成功率は低く、先進国の90%に対して、日本は50%と低下する。
低歯科診療報酬は歯科医師の貧困を産む。全国では5人に1人が年収250万円以下だ。物価水準が高い東京都でも、32%が年収500万円以下だ。
歯科医師の貧困は赤字となる歯科治療をしなくなる傾向がある。赤字治療を極力減らし、少しでも収益を良くするためだ。前述の根管治療を筆頭に歯科治療には赤字治療部門がたくさんある。そのため国民保険では正しい治療を受けられない患者もでてきているのが現状だ。