歯科医は好立地であれば「やったもん勝ち」
しかし、今日の情報社会では悪評ふんぷん系が淘汰されるのも道理だ。中古医療機器市場でも廃業放出品が最も多い斯界だが、経営の明暗が分かれる理由は「評判」ではないそうだ。
「一番の理由はやはり〈立地〉です。うちのような自費クリニックは、多少駅から離れた雑居ビルの5階で開業しようが、患者さんのほうから来てくれる。逆にいえば、立地のすごく良い場所でやれば、結構ひどいことをやってても成り立つ〈やったもん勝ち〉の世界。立地が悪いと先生の腕がすごく良くても患者は訪れない。物件を扱う業者さんにも、けっこう知り合いがいますが、歯科医経営に関しては、やはり立地だろうと僕は思いますね」
採算分岐点(来院患者数30人)を維持する歯科医院の場合、実質の診療時間(7時間半)で割れば1人あたりの診療時間は僅か15分だ。胸中では(やや説明不足なのでは!?)と思いつつ口を開く患者側と、淡々と治療を始める歯医者との噛み合わせが悪い理由もわからんではないが……。
「なるほど。ただ、基本的に〈説明〉は、お金になりませんから。誰も慈善事業でやったいるわけではないし、説明に時間をかけたらその分、どこかの時間を削らなければならない。きちんと患者さんが納得するまで丁寧に説明して、というかたちを日本の医療に望むのは、やはり難しい面があるでしょうね」
帯の「そうしないと儲からないから」が真相か、副題は「ダメな歯医者の見抜き方 いい歯医者の見分け方」を謳う。では、今後の歯医者選びに慎重になるばかり、口腔難民になりかねない読者(患者)がとるべき道とは――次回は同書の核心部分に触れよう。
(インタビュー&文=末次安里)
長尾周格(ながお・しゅうかく)
千葉県千葉市稲毛区で『稲毛エルム歯科クリニック院長。北海道大学歯学部卒業後、同大学 大学院修了。「日本一の歯科医師」を目指し、いくつかの歯科医院に勤務しながら技術を磨き経験を積み独立。虫歯や歯周病の真の原因から導き出した「予防歯科」という考え方を伝えるべく精力的に 活動を展開中。著書に『歯医者が虫歯を作ってる』『歯医者が難病になってわかったこと』(共に三五館刊)がある。